空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 124

第124話 俺の責任

柊視点




「――お兄ちゃん? 顔色悪い」

「大丈夫だよ。心配するな」


 不安そうな顔で未来が俺を見ていた。

 悟られないよう冷静を装うのに必死だったし、そんな目で見つめられるとドキドキしてしまう。
 たった十五歳の少女がそんな目で男を見るなんて考えたら少し怖くなった。誰でも、どんな男でもこの目で見られたら恋に落ちるような……悲しそうな寂しそうな憂いを含んだ瞳。

 俺はすぐに未来から目を逸らした。
 これ以上見ていたら何もかも我慢できなくなりそうだったから。

 少しだけ父親の気持ちが理解できた気がする。無理やりにでも手に入れたくなる気持ち。
 そんな気持ちを少しでも理解してしまった自分には腹が立つ。

 気持ちを切り替えるために別の話をすることにした。


「今日一度家に帰ったのに、なんでまた出て土手に来たの?」


 未来の目が見開かれ驚きの表情に変わった。
 目を伏せて気まずそうに「見てたの?」と聞き返される。


「うん、変だなぁと思って」

「お兄ちゃんに会いたくなかったの」


 未来の言葉に俺は息を飲んだ。
 未来が俺を避けた。こんな傍にいるのに突き放されたような気持ちになる。


「この前のお祝いも結局出られなかったし過呼吸起こしたのも恥ずかしかったし、お兄ちゃん高崎さんと……」

「ごめん!!」


 俺は未来の言葉を遮って謝る。そういうことだったのかとわかったら激しく後悔の念だけが押し寄せた。
 俺のせいで未来が悩んでいた。そのせいで避けさせた。未来はなにも悪くない。みんな俺の嘘のせいで――


「あれはみんなフリなんだ。本当は彼女とつき合ってない。悠聖が、俺が未来をどう思っているのか不安そうだったからつい安心させるために……」

「嘘、なの……?」


 驚きのあまり目を丸くした未来に申し訳ない気持ちでうなずくとその顔が悲しそうに歪んだ。
 さすがに未来の気持ちを探る意味があったということは言えなかった。そして次の瞬間には困惑顔に変わっていた。


「亜矢には明日話す。もうフリはしなくていいって。悠聖にも……」

「……ごめんなさい。お兄ちゃん」


 未来が目を閉じて震える声で謝ってきた。
 その時、なんだかすごくいやな予感がしたんだ。

 その予感は間違っていなかった。


「わたし、悠聖くんとは離れられない」




 そのままどのくらい時間が経ったかわからない。
 未来はずっと目を閉じたまま俯いていて、俺は片手で頬づえをついたまま彼女を見つめていた。


「……どういうこと?」


 その沈黙が耐えられなくなって俺が口を開いた。
 ゆっくり未来が目を開いて俺を見る。


「……約束したの。もう、悠聖くんの手を離さないって……だから……」


 震える声でそう訴えかけるような未来が再び俺から目を逸らした。
 そのまま逃げられてしまいそうで俺はあわてて止めた。


「待って! 未来。俺のことどう思って――」


 困った表情で俺に視線を向ける未来にどうしても聞きたくて詰め寄った。
 さっき『兄妹に戻れない』って言った時、未来はうなずいてくれたはずだ。それは俺の思いを受け入れてくれたと思っていた、それなのに――

 気がついたら俺は上半身を乗り出して、未来を見下ろすような体勢になっていた。
 そんな未来は俺を上目遣いで見つめた。それは『わかってほしい』と言いたそうな目だった。

 でも俺は引かなかった……と、言うより引けなかった。
 ほぼ腹臥位の状態になって未来に近寄ると彼女は少しだけ身をすくめた。


 ……怖がっている。そう感じた。


 距離を取るためだけにその場でうつ伏せになり、顔だけ未来の方へ向けた。
 これ以上は近寄ったらダメだ。俺はその場でなんとかブレーキをかけた。未来は今にも泣き出しそうな顔をしている。

 未来が左向きから俺のようにうつ伏せに体勢を変えようとした時、彼女の胸元が視界に入ってきた。
 一度は触れたこともある胸だったけど、あの時とは状況も気持ちも違う。俺はとっさに左手で自分の目元を覆った。小さくできた胸の谷間が頭から離れない。


「お兄ちゃん……わたし……」


 未来が話し始めてから手をどかして目を開くとすっかりうつ伏せの状態になっていた。
 両手を顎の下において俺を見ている。


「お兄ちゃんが好き」

「っ!」

「でもお兄ちゃんを好きになっちゃダメって自分に言い聞かせていたの」


 未来は少し悲しそうに笑った。
 俺のことを好きでいてくれた。そして、その気持ちにブレーキをかけていた。「いつから?」と、躊躇いながら尋ねると未来は少し考えるような表情を浮かべる。


「お兄ちゃんが泣いてたあの日」


 俺が泣いてた日。それは未来が実父に身を委ねたあの日だ。
 さすがにそうは聞けなかったが、そういう目で訴えるように未来を見ると、うんと悲しげな表情でうなずいた。あの時のことは忘れたいはずだ。俺だってもちろんそうだ。あの光景を二度と思い出したくない。だけど忘れられるわけがない。そして一番辛い思いをしたのは目の前のたった十五歳の少女。


「あの日お兄ちゃんに抱きついて後ろからほっぺにキスしたでしょ? あの時お兄ちゃんに振り返らないでって……伝えた」


 あの時のことはよく覚えている。
 未来が携帯の文字で俺に後ろから抱きついたまま話しかけてきた。


「最後、言いたいことが言えなかった」


 うつ伏せの姿勢で未来が自分の顎の下に置いた手を見ながら言った。


「振り返ったらその唇にキスしてしまう……って」


 未来のその時の想いを聞いて、俺の中で何かがはじけた。
 あの時俺が携帯を掴んで、その先を言わせなかった。


 俺のせい――


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Date:2013/09/23
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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