満月の夜に見る夢は 第20夜 閑話
身体が痛い……腰と、足の間。
ジンジンするような熱いような痛みがするの。
そしてなんだか息苦しいような……。
「――――え?」
ぼんやりした瞼を開くと、目の前に硬い男の人の胸。
雨宮翔吾がわたしの身体をしっかり抱きしめて眠っていた。
そっか……わたし、この人と……。
結局流されるように寝てしまった。
初めてだったのに……でも、不思議と後悔はしていなかった。
雨宮翔吾は優しかった。
最初は痛くてすごく怖くてパニックを起こしちゃったけど、この人が優しく声をかけてくれてキスしてくれたから。
涙が溢れてきた。
なんでだろう。悲しくなんかないのに。目に白い膜が張ってよく見えない。
それが光ってこの人の顔がよく見えなくなってゆく……。
「……ゆき……の?」
この人の声がわたしの名前を呼ぶ。
少し上ずったような心配そうな声と、目を細めてわたしを見つめるその表情……涙でゆらゆらしている。
頬をそっと撫でられているのがわかるけど、瞼を閉じると横向きだった身体がそっと仰向けにされた。
わたしの身体にこの人の身体が圧し掛かってくる。
「震えてる。怖かった?」
何度も頬を撫でられて首を横に振ると、くすっという笑い声がした。
柔らかい唇がふにっとわたしの唇に触れる。
胸がキュンとなる。ドキドキが加速していく。
こんな気持ち、何年ぶりだろう。
わたし……この人に、恋してるんだ。
また恋をする日が来るなんて思わなかった。
そしてこんなにも求められる日が来るなんて……未だに信じられない。
だけどもし夢なら、醒めないでほしい……そう願ってしまっていた。
髪を優しく撫でられ、その手がわたしの頬を覆って涙をそっと拭う。
その温みにまた胸の奥が疼くような感覚。心拍が聞こえてしまいそうだ。
こんなに心地のいい手は初めて……それに今は溺れていたい、わたしだけのものって信じていたい。
「あめみ……」
「翔吾」
「翔吾さん……」
翔吾さんの首元に腕をまわして抱きつくと、背中をぎゅっと抱き寄せられた。
全身に翔吾さんの温もりを感じる。
「雪乃。ずっと俺の傍に、いて」
「――――うん」
「雪乃は煽るのがうまいな……もう一度抱きたくなっちゃうよ?」
まだ怖い、でも……翔吾さんならいい。
そんなふうに思える日が来るなんて思ってもみなかった。
そしてこのしあわせがずっと続くと思っていた。
そう、信じていたんだ。
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