第118話 突然の……未来視点
結局土手まで戻ってきてしまった。
ここの土手は階段を下りると地域の人が作っている花畑がある。結構広範囲にいろんな花が植えられていて見るのが楽しい。野球ができるスペースがあったりかなりだだっ広い。
ここから見る星が最高なんだけど、今日は分厚い雲に覆われていて残念。なんだか雨が降ってきそうな天気になってきた。散歩をしている人達もちらほらいるけどみんな足早に通り過ぎていく。
時計を見ると二十時を過ぎていた。
お兄ちゃんはもう家にいるだろうか。どのくらいで話し終わるのかもわからない。お兄ちゃんが帰ったら母はわたしに連絡してくれるだろうか。
いきなりスカートのポケットの中の携帯電話が震えた。
仕事が終わったらマナーモードじゃなくてメロディにするべきだろうか。震えるのって結構ドキドキするから。
すでに震えが止まった携帯を取り出すのと同時に額に冷たいものが当たった。
真っ黒な空を仰ぐと、大きな雨粒が降り始めてきていた。
とりあえず橋の下に行って雨宿りをしようと思いつつ携帯の画面を見た時、わたしは一瞬呼吸をするのを忘れていた。
今、着信したメールに『父』と表示されていたから。
大粒の雨がわたしを濡らす。
だけどそんなことどうでもいい。携帯の画面を見つめたまま動けなくなっていた。
義父からのメール。怖くて本文を、この画面の続きが開けない。手が震えているのがわかる。
「何やってるんだ!」
「――!?」
後ろから強い力で肩を抱かれた。そして、大好きな声に全身が震えた。
頭の上に茶色い鞄。恐る恐る振り返ってみると、それは怒ったような表情のお兄ちゃんだった。
「こんなところでボーッとつっ立ってると濡れるぞ!!」
右肩をさらに強い力で抱かれ、お兄ちゃんに押されるまま走る。
雨がいきなり強く降ってきて、目の前が霧っぽく見えた。
そのまま橋の下まで連れて来られた。
そこに辿り着いた途端、さらに雨の勢いが強くなった。雨音がお腹の奥まで響くぐらい。
「何やってたんだ? まったく」
お兄ちゃんが着ていたジャケットを脱いで、私の肩にかけた。
申し訳なくて、そのジャケットを取ろうとするとお兄ちゃんがわたしの両肩を掴んで阻止する。
「いいから!」
“いいったら!”
お兄ちゃんの顔を見て唇で訴えると、驚いたような表情を見せた。
「いいから着てなさい」
“やだ!”
「未来のシャツ濡れて透けてるから」
お兄ちゃんが小さい声で言った。
言われて自分の身体を見ると、ブラウスに下着がくっきり浮き出ている。わたしは慌ててお兄ちゃんのジャケットの前をしっかり押さえた。
「だから言ったろ?」
困惑顔のお兄ちゃんがわたしから目を逸らした。
まさか透けているなんて思わなかった。こんな日に限ってキャミソールを着るのを忘れていただなんて。
ぺコッと頭を下げて少し距離をとり、そのままお兄ちゃんに背中を向けた状態でもう一度携帯を確認すると、「誰から?」と右後ろから携帯を覗き込まれていた。
それに気づいて慌てて画面を胸元に隠したけど、お兄ちゃんの顔が険しく変わっていく。
――見られた。
「見せなさい」
お兄ちゃんの大きな手がわたしの目の前に差し出される。
わたしはそれを見て首を振った。これ以上、お兄ちゃんを巻き込みたくない。
「父親からだろ? 見せるんだ」
わたしが携帯を持っている右手首をお兄ちゃんが掴んだ。
“やっ!”
「未来! 言うことを聞きなさい!」
“離してっ”
左手でお兄ちゃんの胸を押すのと同時に、ピカッと空が光る。
それに続いてすぐにドカーン! とかなり大きい音の雷がが嘶いた。
“きゃあ!”
左手で耳を塞いで、わたしはお兄ちゃんの胸に顔をうずめてしまっていた。
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