VOICE 115
第115話 彼女の忠告柊視点
泣きながら眠る未来をただ呆然と見つめるしかできなかった。
どんな夢を見ているの?
ゆっくりと音を立てないように座り直して未来の寝顔を見ると涙が頬を伝って髪に落ちた。
手でその涙を拭おうとすると未来の身体が少しだけ反応を見せる。起きてしまうか心配だったけど軽く寝返りを打っただけだった。
せめて夢の中では幸せであってほしい。そう祈るような思いで静かに部屋を後にした。
リビングに戻ると悠聖と亜矢が一斉にこっちを見た。
ふたりともあまりにも鋭い目つきで、何となく居心地が悪い。
「……何?」
「別に……」
俺とすれ違いで悠聖がリビングを出て行く。
そのままリビングの扉越しにその様子を伺うと自室に入って行くのが見えた。
「……悠聖、どうかした?」
亜矢に聞くとふふっと誤魔化すように笑ってワインを飲み続けている。
「ちょっとだけイジワルしちゃったー。柊さん戻って来ないから悠聖くん、すごーく心配してたんだから」
「え? どういう……」
「んー、忠告するなら柊さんは選ぶ時期に来ているんだってことだけ」
亜矢の言っていることの意味がよくわからなかった。
「弟か、妹か……もしくはどちらも失うか」
その後、悠聖が未来をタクシーで家まで送って行った。
車を出すと言ったが『酒を飲んでるから断る!』と悠聖に頑なに拒否されてしまった。俺はほとんど飲んでいなかったし、時間も経っていたから大丈夫だと言ったけど許可が下りなかった。
未来は悠聖の部屋から直接マンションを出てしまい、顔を見ることすらできなかった。
亜矢は今、リビングの隣の和室で泥のように眠っている。
「仕事で疲れているんじゃないの?」
帰って来た悠聖がキッチンで洗い物をしながら笑う。
俺は悠聖が洗った食器を拭いていく係だ。
「まぁ……ストレス多そうな職業だしな」
「でもよさそうな人だと思う。いろいろ知ってるっぽいけど」
悠聖が意味深な発言をしたのが引っかかった。
「何か話した?」
「ん? 誰が?」
「え、亜矢が」
「別に……兄貴のことすごく理解してそうだなって思っただけ」
悠聖と亜矢は俺が席を外している間に何かを話したふうだったけどよくわからなかった。
亜矢が俺に忠告したがっていたことも気になる。
――弟か妹か、どちらも失うか――
確実に悠聖か未来かということだと思うけど、どちらも失うって?
何度もその言葉の意味を考えたけど、結局答えは見つからなかった。
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