空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 113

第113話 心配な妹

柊視点




「ところで君、何歳なの?」


 亜矢とふたりでワインを飲みながら料理をつまんでいる時、それとなく聞いててみた。
 女性に年を聞くものじゃないとよく言うけど、亜矢はまだ若いし問題ないだろう。

 料理はどれもおいしくてふたりなのに結構減りが早い。すでに頬を紅潮させた上機嫌な亜矢が箸を置いて口元を押さえた。


「あれ? 言いませんでした? 二十二歳ですよ」

「え? 同い年?」

「学年は柊さんが一個上かも? たぶん。私、大学じゃなくて看護専門学校出身だから」


 ワインをぐびぐび飲んでいるさまは二十二歳じゃないけど。


「もっと上かと思った」

「それはどういう意味で? 老けてます? 私」


 ワインを右手にトーストを左手に持って亜矢が不満げにぼやきながら、グラスを俺の前に差し出した。
 それに少しだけワインを注いでやるとまたぐいっと呷る。


「いや……そんなこともないけど」

「柊さんだって高校教師には見えないですよ。スーツを着ればそれなりですけど」

「それなり、ね」

「なんだ。もうできあがってるんだ」


 リビングに戻ってきた悠聖をうれしそうに亜矢が手招きする。
 もうすでに酔っ払いな彼女を見て悠聖が俺に視線を送りながら『大丈夫?』と未来のように唇の動きで確認してきた。首をかしげながら一応うなずいておくと、苦笑いが返ってくる。


「未来は?」

「今寝てる。疲れているんだと思うよ。毎日バイトで最近課題も多いし」

「未来ちゃんってバイトしてるの? だってその制服って聖稜でしょ? あの進学校でバイトって……」


 亜矢が目を丸くして驚いている。
 

「未来だけ認められているんですよ」

「未来ちゃんだけ? どうして?」


 キッチンに入って行く悠聖の後ろ姿を亜矢が目で追ってゆく。
 真っ赤な目と頬が色っぽいけど、すぐに潰れてしまいそうな気がして見ていて心配だった。


「さぁ、たぶん特待生だからじゃないかな?」


 キッチンの奥から悠聖がそう答える声がした。
 さすがに未来の家庭事情は言わなかった。言えるわけもないだろう。


「へえ。特待生。未来ちゃんって頭いいんだね。頭がよくてかわいくて……天は二物与えちゃったんだ」


 亜矢の発言に俺も悠聖も何も言えなかった。

 頭がよくてかわいくても、未来には誰もが持っている『声』がない。
 天は二物を与えたかもしれないけれど、彼女の置かれている状況は誰もが目を背けたくなるものだとわかってもらえないもどかしさがワインの苦味と共に口いっぱいに広がった気がした。



**



 悠聖が加わって三人で飲み食いしていたら、いつの間にか二十一時をまわっていた。
 未来の様子が心配でならなかった俺は、顔を洗ってくるとふたりに言い残してリビングを後にした。静かに洗面所へ向かい、水でよく顔を洗うとかなりスッキリした。酔いもかなり醒めた。


 そのままリビングへは戻らず、ゆっくり悠聖の部屋へ近づく。
 音を立てないように扉を開くと、部屋の電気が少し落としてあった。

 悠聖の布団にタオルケットを抱えた未来が気持ちよさそうに眠っている。
 着ているものが悠聖のTシャツとパジャマのズボンだから大きすぎて目のやり場に困る。部屋の押入れからもう一枚毛布を出して未来の身体の上にかけ、その横に静かに座る。

 すうすうと小さく規則的な寝息が聞こえ、ひさしぶりに未来の安らかな寝顔が見れて安心した。
 起こさないよう、ゆっくり立ち上がろうとした時。


「……あ」


 未来の目許から涙が零れ落ちるのを見て、俺は小さく声をあげてしまった。



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Date:2013/09/18
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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