空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 111

第111話 無自覚な心と悲鳴をあげる身体

未来視点




「……あ」


 お兄ちゃんと高崎さんが一緒にわたしの方を見た。


“ごめんなさい”


 わたしの唇、たぶんそう動いていたと思う。
 全身が震えてしまってよく覚えていない。唇の動いた感覚もないくらいだった。


「あ、見られちゃった」


 高崎さんの声が遠くで聞こえた。
 わたしはその場を離れるように後ずさる。

 テーブルの席に戻ろうとした時、身体の違和感に気がついた。


 胸が苦しい……!


 自分で肩呼吸をしているのがわかる。苦しい……なんで? 息ができない。
 その場で膝が折れて、自然に四つんばいの体勢になってしまった。空気を吸おうとするけど入ってこない。喉元を手で押さえると手が痺れてるのがわかった。自分の呼吸音が耳につくのに、酸素が吸えない……苦しい……。

 目の前が暗くなって……いく。


“助けて……お兄ちゃ……”


 唇を動かして助けを求めるけど、声が出ないし息もできない。


「――――未来!! しっかりしろっ」


 お兄ちゃんの顔が視界に入ってきたけど、苦しくてぼんやりとしか見えない。
 両肩を前からしっかりお兄ちゃんに支えられているのはわかる。だけど声が遠い。苦しくてもう……。


「これ口に当てて! あんまりしっかり塞がないで、落ち着いてゆっくりお腹で呼吸するの」


 耳元で高崎さんの明確な大きい声が聞こえてきた。
 わたしの口にタオルがあてがわれ、横から腹部を二回叩かたことでそこに意識が集中する。


「大丈夫だから。しっかり息を吐いて……お腹をへこますように、そうそう上手」


 薄く目を開け、急にゆったりとした口調になった高崎さんの指示に従ってゆっくり呼吸をしてみる。
 すると急に酸素が吸えるようになった。そのまま声かけ通りに何度も呼吸を続けると、苦しさが少しずつ軽減していく。


「未来! どうしたの?」


 悠聖くんの声が後ろから聞こえた。いつの間にか部屋から戻ってきていたんだろうか。
 しっかり目を開けると目の前にお兄ちゃんがいて、その右隣に高崎さんがしゃがんでいる。すでに落ち着きを取り戻しつつあるわたしを見て「なんだったんだ」とお兄ちゃんの不安そうな声を漏らす。


「過呼吸よ」


 高崎さんの言った言葉に自分自身が一番驚いていた。
 過呼吸? わたしが? 恥ずかしくて顔が上げられない。お兄ちゃんも高崎さんもわたしを見ているのがわかる。見ないでほしいのに――


「兄貴、手を離して。こっちにおいで、未来」


 いたたまれなくてぎゅっと目を閉じた時、後ろから悠聖くんがわたしの両肩をしっかり抱いて自分の胸に凭れかけさせてくれた。救われた気がして涙が出そうになる。


「大丈夫? 立てるかな? ちょっと休もうな」


 穏やかな口調で悠聖くんに耳元で尋ねられ、静かにうなずくとゆっくりわたしを立たせてくれた。
 不安げにわたしを見る悠聖くんに泣きそうな顔を見せてしまった。しっかりと身体をに支えられてそのままふたりでリビングを出る。

 わたしの左肩を支えて右側に立っている悠聖くんの顔を見上げると、悲しそうな顔で優しく微笑んでくれた。


「あそこにいづらそうだったから……」


 気づいてくれたんだ、悠聖くん。うれしくて涙が出そうになるのを慌てて堪えて俯く。
 そのままお兄ちゃんの寝室の向かいの元わたしの部屋に誘導されると、扉が閉まるなり悠聖くんにきつく抱きしめられた。


「苦しかった? ひとりにしてごめん」


 悠聖くんの優しい手に頭を撫でられたら急にホッとして堪えてた涙が一気に流れ出した。
 わたしは彼の腕の中で何度も首を振った。悠聖くんは何も悪くない。謝らせたことに申し訳なくなってどんどん涙が溢れ出す。

 お兄ちゃんと彼女のキスシーンを見ただけなのに、なんでこんなふうになってしまうの?
 驚いたから? そんな理由でこんなふうになる? わからない。


 ごめんなさい、悠聖くん。
 みんなわたしが悪いのに……ごめん、ごめんね。


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Date:2013/09/17
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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