空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 109

第109話 擬似恋愛?

柊視点




 翌日十七時。

 湊総合病院に日勤を終えた高崎さんを迎えに行った。

 今日は高崎さん主催の俺の快気祝い。
 病院前でわかりやすく待っていてくれたからすぐ車に乗せることができた。なんのてらいもなく助手席に滑り込んでくる。後部座席に座られたらそれはそれでおかしいだろうけど、なんとなく気になった。

 高崎さんは若草色のチュニックワンピに白いサブリナパンツで今日もかわいい感じ。
 やっぱり白衣とはイメージが全く違う。


「柊さん、そのシャツ似合いますね」


 俺のただの紺色のシャツを指差して高崎さんが楽しそうに笑った。


「これが?」

「中のTシャツもかわいい。こういう組み合わせ好きです」


 横目で高崎さんを見ると怪訝そうな顔で俺を見ている。


「なんですか? 柊さん、その目は?」

「褒めても何も出ないから!」


 俺の目も人のこと言えず相当だったらしい。こんな普通の格好で褒められるなんて思わなかったから。
 持ち上げ上手なのか? 本心なのかよくわからない人だ。高崎さんがシートベルトをするのを確認してゆっくり車を出すとプッと彼女が笑い出した。


「別に何か出してほしいから言ったわけじゃないですよ? あ!」


 急に高崎さんが大きい声をあげたからビックリしてしまった。
 運転中に動揺させないでほしいのだけど、彼女には何を言っても無駄なような気がした。忘れ物でもしたのだろうか。


「柊さんの家でシャワー借りていいですか? 仕事で汗かいちゃって……はぁーあっつぅ」


 ハンカチで額の汗を拭いながら高崎さんが俺を見てニッコリ笑う。呆れて開いた口が塞がらない。
 手を顔の前でヒラヒラ仰ぐようにしているので車内のエアコンの温度を少し下げた。あんまり下げすぎても汗をかいてるから寒くなると困る。仕事が終わったらきれいにしたい気持ちはわかるが。


「使ってもいいけど、男の家で無防備にシャワーとか……」

「亜矢! 私は彼女なんだから下の名前で呼ばないと怪しまれる!」


 俺の親切な忠告の言葉を遮って高崎さんが詰め寄ってきた。
 運転しながら横目でちらっとその表情を見ると結構かわいかった。絶対にモテそうなタイプだと思う。特定な人がいないのが不思議な感じだ。


「ほら! 呼んでみて! 練習」

「えーそんな練習いらないで……」

「いきなりだと出てこないから! 今のうちに! ホラ」


 促されてどうにもならない感じになってしまった。
 「いらないでしょ」までも最後まで言い切らせてもらえなかった俺って。ええい、しょうがないな……どうにでもなれ!


「……亜矢」


 恥ずかしくて前だけを向いて小さくつぶやく。
 本当の彼女でもないのに、申し訳ない気持ちにすらなった。


「うん、いい感じ」


 ニコニコして彼女が笑うのを見てドキドキしてしまった。
 なんだ? 落ち着け自分。無駄に動揺してどうする。



**



 買い物を終えて家に着いたのは十八時を過ぎていた。

 亜矢はすぐにシャワーを使い、俺は彼女の指示通りキッチンで野菜を切っている。
 なんだかいろいろ買ってきたんだけど全部使い切れるのか?


「柊さんって料理する人なんだ。男の人が料理できるのっていいな」


 髪をひとつに束ねて亜矢がキッチンに入ってきた。シャワーを浴びたのに化粧はしている。
 仕事の時より口紅の色が明るくて赤っぽく、グロスが光っている。女性はその場の状況によって変わるものなんだろう。


 なんだか擬似恋愛をしているみたいで、落ち着かない自分がいた。



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Date:2013/09/16
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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