空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 108

第108話 間違い電話?

未来視点




 バイト帰りの電車の中、お兄ちゃんからメールが来た。


  『今日治療が終わった。明日待ってる』


 それだけの短いメールだったけどうれしかった。
 治療が終わって本当に安心した。人目もはばからず表情を緩ませてしまっていたと思う。

 今日お兄ちゃんはわたしの母と会う予定だ。その前に連絡をくれたのかもしれない。


 家に帰ってお風呂の準備をしていたら二十時になっていた。
 今頃ふたり会っているのだろうか。母の仕事が終わるのが今くらいだからこれから会うのかもしれない。


 茶の間のテーブルの上に置いておいた携帯がすごい音を立てて震え出したのでビックリした。
 ひとりの時にこのバイブレーター音はすごく怖い。心臓に悪いなと思いつつ画面を覗くと悠聖くんからのメールった。


  『バイトお疲れ様。帰り大丈夫だった? 
   今日は兄貴が遅いから僕ひとりだよ。
   明日はバイトが終わるの図書館で待ってるから一緒にここへ帰ってこよう。
   快気祝い、どんなのかちょっと気になるよね。兄貴らしくないことだから』


 そっか。今日お兄ちゃんは遅いから悠聖くんもひとりなんだ。
 わたしがもう迎えはいいと強く断ったから、図書館まで送ってくれて帰って行った。寂しがってるかもしれないからメールの返事をしたら電話が来るかも。

 メールを打とうとしたら、持っていた携帯電話が震えた。悠聖くんかな?


「――!!」


 画面にうつし出されたのは『着信:父』の表示。
 だけどそれはワンコールですぐに途切れた。


 ドクン、ドクンと心臓の音が騒がしくなる。
 どうしよう、なんで電話を? 話せないってわかっているのに――
 
 携帯を持つ手が小刻みに震える。
 でも、ワンコールで切れた。母に報告しておいた方がいいのかもしれない。帰ってきてからで大丈夫だろうか。


 怖いから、早く帰って来てほしい。
 だけどお兄ちゃんと会う予定なのに、ここで連絡をしたらわたしを心配して帰って来てしまうかもしれない。もう一度かかってきたら、申し訳ないけど母に連絡しようと決めた。




 その後、携帯は一度も震えないまま二十一時に母が帰宅した。
 悠聖くんにメールの返信をするのも忘れて、そのまま携帯を部屋の机の上に置きっ放しにしてしまった。無意識に遠ざけていたのかもしれない。そんなことをしても着信が来れば履歴は残るから一緒なのに。


 母が急な残業になってしまい、今日はお兄ちゃんと会えなかったと聞かされた。
 連絡したら『また後日で』とお兄ちゃんから返事が来てよかったと、母は肩をすくめて大きなため息を漏らした。お兄ちゃんももう家に着いただろうか。


 明日のバイトの後、帰りが遅くなることを母に伝えると、帰りは気をつけるようにとだけと言われた。
 なんとなくお兄ちゃんの家に行くとは言いづらくて伏せてしまう。理由を深く聞かれなかったからよかった。わたしを信用してくれていると思っていいのだろう。


 義父からの電話のことは黙っておくことにした。
 間違いかもしれないし、母の表情にはいつも以上に疲れの色が濃く刻まれているように見えた。


 余計な心配をかけたくなかったんだ。

 
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Date:2013/09/15
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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