VOICE 102
第102話 もう離さない未来視点
十九時に悠聖くんが図書館の前で待っていてくれた。
「お疲れ様」
悠聖くんの左手がわたしのほうにすっと差し伸べられた。
わたしは彼を見上げて、躊躇しながらその手に自分の右手を乗せる。すぐにぎゅっと強く繋がれた。
「仲いいねっ」
わたし達の後ろに瑞穂さんがニコニコして立っていた。
それに全然気づかなくて、慌てて悠聖くんの手を思いきり振りほどいてしまった。
「あら、離さなくていいのに。待っててくれるなんて未来ちゃん愛されちゃってるね。悠聖くん、柊によろしくね」
瑞穂さんが手を振って足早に去っていった。
言いたいことだけ言って、まるで嵐のような人だ。
悠聖くんを見ると、少し冷ややかな目でわたしを見ていた。
「なんで手を離すの? 見られたくないの?」
悠聖くんの左手がわたしの右手をとって、再び強く握った。
指同士を絡めるような繋ぎ方に変化すると、そこから伝わる温もりに胸がちくりと痛みのようなものを感じた。
“違う……恥ずかしくて……”
「……そっか」
悲しそうな表情をして悠聖くんがわたしから目を逸らした。
すごい罪悪感を覚え、彼の手を強く握り返すと再びこっちを向いてくれた。わたしを見る悠聖くんの目をじっと見つめて唇を動かす。
“もう離さない”
「約束する?」
首を傾げて尋ねてくる悠聖くんに「うん」と力強くうなずいた。
彼の表情が優しいものに変化する。それを見てわたしも自然に頬が緩んだ。穏やかな気持ちになれた。
もうこの手を離さない。そう決めたの――
家までずっと手を繋いで送ってもらった。
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