空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 100

第100話 図書館で××

未来視点




 放課後。

 図書館のバイトに行こうとしたら悠聖くんも行くと言い出した。
 もうわたしはお兄ちゃんのマンションに住んでいるわけじゃないしお迎えもいらない。

 それにわたしの送迎をしたらお兄ちゃんのマンションがうちのアパートの一個手前の駅だから、悠聖くんが戻る羽目になるということを必死で伝えたんだけど、「別にいい」とあっさりかわされる。

 Y図書館を気に入ったから一緒に行きたいんだと言われ、それならしょうがないと最後は受け入れた。



**



 返却本をカートに乗せてガラガラ押していると、瑞穂さんが書架と書架の間からひょっこり顔を覗かせた。


「未来ちゃん、今ちょっといいかな?」


 わたしの仕事を瑞穂さんが手伝ってくれている。
 悪いなぁと思いつつも横目で見たら瑞穂さんが話し始めた。


「修哉には深いことを聞くなって止められてたから今まで質問しなかったんだけど、未来ちゃんと柊ってどういう関係なの?」


 その時、瑞穂さんの視線がわたしに移ってドキッとしてしまった。
 修哉さんは瑞穂さんに問い詰められても言わないでくれたんだ。それに、今まで修哉さんの言いつけを守っていた瑞穂さんはなんで急にわたしに聞くのだろうか。

 その疑問を抱きつつ、なんて答えればいいか迷いながら携帯に文字を打って瑞穂さんに見せた。


『柊さんはなんて言ってました?』


 質問を質問で返す反則技を使ってみると、瑞穂さんはふっと笑った。


「それが聞けたら未来ちゃんに聞いてないわ」


 確かにそうだよね。だけどわたしの口から言っていいのか躊躇う。
 別にわたし達はやましくなんかないんだけど、お兄ちゃんが瑞穂さんに言わないのも理由があるんだと思うから。少し考えてから伝えたいことを携帯に打ち込んで瑞穂さんの目を見ながらそれを見せた。


『わたしの彼が柊さんの弟なんです』


 瑞穂さんの不安を最小限にする答え方をしたつもり。
 これで……いいよね。お兄ちゃん。




 瑞穂さんを連れて自習室へ向かう。
 窓際の端の席に座っている悠聖くんの肩を叩くと、ものすごく驚いた顔をして振り返った。


“ちょっと、いい?”


 目を白黒させて悠聖くんがうなずいた。
 あまりにも驚いたようで少しだけ眼鏡がずれたのがおかしかった。




 一番奥の書架の端で瑞穂さんに悠聖くんを紹介した。
 ここならあまり人も来ないし目立たないから。


「柊の弟さんなんだぁ……」

「どうも、兄がお世話になっている方だったんですね。時々見かけていました」

「あ、私も。背が高くて大人っぽい高校生だなって思ってたら一年生だったのね」


 瑞穂さん納得した様子でニコニコしている。
 悠聖くんが今日図書館に来てくれて助かったと心から思った。


「でも、その理由だったらなんで修哉は本当のこと言わなかったのかな? 未来ちゃんが柊の家に入るのも不自然……」


 悠聖くんに視線を送ると、少しだけ目を泳がせている。
 そして、いかにも今思い出したかのように流暢に話し始めた。


「修哉さんが僕と彼女の関係を知ったのってつい最近なんですよ。だから詳しい理由を知らなくて言えなかったんじゃないですか?」

「あ、そうなの?」


 戸惑う瑞穂さんを見て、畳み掛けるように悠聖くんが話し続ける。


「彼女が兄のマンションに入ったのは、僕が兄貴の家で急に熱出して寝込んだ時があって、未来を連れてきてもらったこと……あったよ、ねっ」


 悠聖くんがいきなりわたしに振ってきたから「うんうん」と慌てて何度もうなずいた。
 すごい、この短い時間でよくそんなこと思いついたと思う。彼の頭の回転のよさをうらやましく思った。
 

「そうなの? じゃその時を私が偶然見ちゃったってこと?」


 悠聖くんを見ながら何度も必死で首を縦に振り続けた。彼も同じように何度もうなずいている。
 まるで振り子時計のような自分達がおかしかった。






 瑞穂さんが納得顔で去って行った後、悠聖くんにお礼を言って深々と頭を下げた。


“助かった……ありがとうね”

「いや、焦ったね」


 彼の気転の早さには目を瞠るものがある。わたしひとりじゃあんなに迅速な対応できなかった。頭が回らない。


「未来、僕に借りを作ったよ」


 両肩を真正面から掴まれ、背中を優しく書架に押しつけられた。
 何事かと戸惑っているうちに、いきなり悠聖くんの顔が近づいてきてあっという間に唇を奪われた。


「これで帳消し」

「……」

「一度やってみたかったんだ。図書館でキス」


 あまりにもいきなりのことで状況が把握できず、ボーっとしているわたしの頬を悠聖くんが軽くつねった。
 その刺激で我に返ったわたしは、急に恥ずかしさがこみ上げてきて悠聖くんの胸をポカポカ叩く。たぶんわたしの顔は真っ赤になっていると思う。精いっぱいの照れ隠しだった。


「ごめんごめん。でもスリルあったでしょ?」


 悪戯っ子みたいな表情をする悠聖くんに舌を出してみせた。


“知らないっ”


 恥ずかしかったけど穏やかな時を過ごせて少しだけほっとしたんだ。
 お兄ちゃんとの誤解を解くためだけに悠聖くんを利用してしまった後ろめたさがあったからだと思う。


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Date:2013/09/11
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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