VOICE 93
第93話 僕でいいの?悠聖視点
僕の背中にぴったりくっついて未来が眠っている。
いつも以上にくっついているように思える。だけど暖かくて気持ちがよくて、そこに未来がいると実感できてうれしさがこみ上げてきた。
未来が急に『嫌いにならないで』と言った。
そして、僕を好きと訴えながら潤んだ瞳を向けた。なんで急にそんなことを言い出すのかさっぱりわからなかった。
諦めようと思っていたのに。なんで今さら未来の方から。
背中を離して未来の方に向き直ると、彼女は相変わらず右側の壁の方を向いている。
そっと未来の下になっている右肩に自分の右腕を差し込むように入れると、彼女はゆっくり寝返りを打って僕の方に向いた。そのまま僕の胸に顔をうずめて満足そうな表情を見せる。
結構長い時間、未来のその顔を見つめていた。
「未来……」
小さな声で名前を呼びかけるけど反応はない。
こんなにも穏やかな表情を見せられたのはひさしぶりな気がした。静かな寝息にあどけない寝顔。顔にかかった髪をよけてやるけど、ぐっすり眠ってしまっているようだ。
「本当に……僕でいいの?」
もう一度小さい声で語りかけてみたけど全く起きる気配はなかった。
左手で眼鏡を外して静かにベッドサイドに置き、未来の頭に自分の顔を近づけるとかすかにリンスの香りがした。
未来、僕はずるい男なんだよ。それでも君は僕でいいと言うの?
みっともないけど一度離そうとしたその手をもう一度掴んでしまいたくなるよ。
本当に僕でいいの?
君は後悔することになるかかもしれないのに……。
→ NEXT→ BACK
 
Information
Trackback:0
Comment:0
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学