空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 92

第92話 自責の念

未来視点






 明日お兄ちゃんが帰ってくると思うとうれしくて眠れなかった。
 ワクワクしていてじっとしていられない。早く元気になったお兄ちゃんに逢いたい。


「眠れないの? 未来」


 背中をくっつけている悠聖くんが小さい声で尋ねてきた。
 一度うなずいてからゆっくり悠聖くんの方を見たけど、向こうもこっちに背中を向けているから伝わっていないはず。

 最近悠聖くんはずっとこんな感じ。
 寝る時はずっと左を向いているし、夜目覚めて見ても同じ。

 悠聖くんの背中を見ているとなんとなく寂しそうに思えるの。悩んでいるのかもしれない。
 でも何も話してくれない彼。わたしじゃ役に立たないのかもしれない。だけど、それじゃ寂しい。


 思いきって悠聖くんの右肩を叩いてみた。


 「ん?」と、返事はくれたけど、振り返ろうとはしない。こっちを見ようともしてくれない。
 もしかして、わたしのこと嫌いになったのかもしれない。わたしがフラフラしているからそれに気づいたのだろうか。それでもこうして一緒にいてくれるのはお兄ちゃんに頼まれたからなのかも……いやいやなのかもしれない。

 嫌われても何も言える立場じゃないけど。


“ごめんなさい……”


 伝わるわけないけどそう唇を動かす。
 足元の方からゆっくりベッドを降りて静かにお兄ちゃんの寝室を出た。




 寝室の向かいの自分の部屋に入り、電気もつけずに絨毯の上にぺたりと座り込む。
 そうだ、この部屋の電気はつけておいた方がいいのか。電気もつけずにただ部屋で座り込んでいたらおかしい。ここに布団を敷いて寝た方がいいのかもしれない。


 ……どうしよう。胸がドキドキしてきて背中まで重だるい。悠聖くんがすごく遠くに感じる。
 今までわたしは悠聖くんに甘えて利用して依存しすぎていた。そのことはお兄ちゃんが入院した時、二人の母親に言われて思い知ったはずなのに。

 ポケットの中の携帯で部屋を照らして時間を見ると、〇時を過ぎていた。明日も学校だし、早いところ寝ないといけない。

 わたしがこうやっていじけてると悠聖くんが心配するかも。
 もう寝ついていればいいけど、こうして反省することさえ彼に負担をかけているかもと考えるとどうしたらいいか――


「未来? そっちで寝るの?」


 部屋の扉がノックされたのと同時に悠聖くんの心配そうな声が聞こえた。
 やっぱり寝てなかったんだ。ベッドにわたしがいないことに気づいて見に来てくれたのかもしれない。無視するのも悪いから静かに部屋の扉を開けた。


「どうしたの? 電気もつけな……」


 悠聖くんの言葉を遮るようにわたしはその胸に顔をうずめた。
 彼の身体が一瞬強張ったのがわかる。悠聖くんのパジャマの胸の辺りをぎゅっと握りしめて見上げると、困惑顔の彼と視線がぶつかった。
 

“ごめんなさい!”


 わたしが謝ると、悠聖くんは目を見開いて驚きの表情を見せた。
 すぐに目が細められ、悲しそうな笑顔を向けられる。そんな顔をさせたいんじゃないのに。


「なんで? いきなり、謝っ……」

“悠聖くんのこと好きなの!”


 再び彼の言葉を遮るように唇を動かして思いを伝える。
 案の定、悠聖くんは言葉を失った。そしてまた驚きの表情に変化してゆく。まるで百面相みたいだった。だけどわたしを気遣うような心配そうな顔には変わらない。

 
「未来、どうしたの?」

“怒ってる?”


 わたしが聞くと悠聖くんは目を丸くしたままゆっくり首を横に振った。
 そしてまた悲しげに微笑む。それが本当に辛そうで涙が出そうだ。そんなふうな表情をさせているのはわたしのせいだから。


“嫌いにならないで”


 本当はそんなこと言っちゃいけないと思っていた、言える立場じゃないのもわかっていた。
 だけど、悠聖くんがいなくなってしまうと思ったら怖くて言わずにいられなかった。ずるいかもしれないけど後悔したくない。

 困惑顔の悠聖くんがわたしをじっと見つめている。


「未来……」

“ごめんなさい!!”


 叫ぶように訴えることしかできなかった。
 許してもらえるならいくらでも謝る。心が揺れた自分が全部悪いから。悠聖くんを失いたくない。


「嫌いになんか……なるわけない」


 そう言う悠聖くんの目が戸惑っているように見えた。
 わたしの気のせいなのだろうか。でも、不安は拭いきれない。


“本当に?”


 再度確認すると悠聖くんはうん、と笑顔でうなずいてくれた。
 それを見てほっとしたわたしはその胸に頬を擦り寄せ、しがみつくように強い力で抱きついてしまった。頭上で悠聖くんの笑い声がする。それにも安心してさらに腕に力を込めた。

 一方、彼は真逆で壊れ物を包むかのようにわたしの身体を優しく抱き寄せてくれた。
 まるで思いの重さみたいだと思った。わたしが今、悠聖くんを欲している思いは彼のものよりも断然強い。だけどそれが彼に負担をかけているんじゃないか、そんな不安に苛まれた。


「もう寝ないと明日起きられないよ」


 子どもをあやすよう何度もわたしの頭を撫でてくれた。いつも変わらない優しさをくれる。
 わたしは悠聖くんの顔を見上げて不安をかき消すように彼の両腕を掴み、少しだけ背伸びをしてさらに近づいた。


“キスしていい?”


 その願いに悠聖くんの顔が一瞬で赤くなった。
 いいかダメかの返事も聞かずにそのまま思いきり背伸びをして悠聖くんの唇に自分の唇を重ねる。するとわたしの身体を支えるように悠聖くんが腰に手を回してくれた。

 触れるだけの優しいキス。それだけで幸せな気持ちをもたらしてくれた。
 


 そしてまたお兄ちゃんのベッドで悠聖くんと背中をくっつけて眠った。
 すごく安心してすぐに眠りにつけたんだ。

 わたしは微睡みながらひとつの決心をしていた。

 もう、二度と離れたりしない――



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Date:2013/09/07
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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