空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 91

第91話 退院前夜

柊視点




「明日退院決まってよかったですね。手術オペ後五日で退院なんてありえないですよ。ゴネた甲斐がありましたね」


 点滴の滴下調整をしている看護師の高崎さんが俺を見て呆れたように笑う。
 『ゴネた』と称され、恥ずかしくなってしまった。主治医の先生には何度も止められたがあまりにも俺がしつこく申し出たため根負けしたのだった。


「あ、それは言わないでくださいよ。でも毎日通院なんですけどね」

「当たり前ですよ! まだ抜鉤ばっこうも済んでないんですから!」


 抜鉤とは縫った部位をホチキスのようなもので止めてあって、それを抜くことらしい。
 どうやらチクチクするとかしないとか。


 病室の扉がノックされてすぐに人が入ってくる気配がした。
 こちらから返事も何もしないのに図々しく入り込んできたのは修哉だった。


「なんでおまえ……?」

「未来ちゃんに聞いた。一緒に行こうって誘ったらフラれちまったけど、彼氏が迎えに来るってさー」

 
 ケラケラ笑いながらお手上げのポーズを取っておちゃらける修哉を高崎さんが見ていた。
 俺の視線に気づいたのか高崎さんがこっちに視線を向けた。


「あれ俺の同級生。兄弟みたいなもんです」

「あれって! ひでぇ扱い。藤原修哉と申します」


 修哉が珍しく丁寧に挨拶をしている。ナースという職業に弱いのか、白衣にやられたか?
 高崎さんも笑って会釈した。


「未来さんって彼がいるの?」


 潜めた意味深な声で高崎さんが聞いてきた。
 少しだけだけど関わった未来のことが気になる様子。


「俺の弟が、彼氏」

「ええっ!? なにそれっ」


 急に高崎さんの顔色が変わった。
 なぜか高崎さんには言わなくてもいいことを言ってしまう。弱っている時にお世話になったり、大きな協力してもらったからかもしれない。


「何? 看護師さんに未来ちゃんのこと知られてるの? どういういきさつで?」


 俺と高崎さんの顔を修哉が交互に見ている。 
 こうなると、修哉の興味は止まらない。ちゃんと説明するしかないだろう。ここまでバレたらもう同じだ。


「おふくろに内緒で未来に会わせてもらった」

「まぁ……おふくろさんと未来ちゃんを鉢合わせさせたくないわなぁ」

「えっ? どういう意味で?」


 今度は高崎さんが興味深々顔になる。


「ふたりとも、楽しんでない?」


 俺がため息をついてふたりを見ると慌てて首を振っている。


「だってオレは関係なくないし」

「私だって協力したし」

「あーはいはい」


 会話を断ち切るかのように俺の携帯電話が震えた。
 オーバーテーブルの上においてあったからかなりの振動音が響き、三人ともそれに視線を移した。話題の未来からメールだった。


  『お兄ちゃん。今日もバイト終わって帰ってきたよ。
   毎日悠聖くんがお迎えに来てくれるから安心してね。
   明日も学校とバイトで迎えには行けないけど気をつけて帰ってきてね。待っています』


 
 文章から元気でやってそうな未来が想像できて安心した。
 明日になれば帰れる。それだけがうれしくて待ち遠しかった。『待っています』で終わっているメールが酷く愛おしいものに感じてしまう。


「……未来ちゃんかよ」


 据わった目で修哉が俺を見ている。鋭い。


「顔に出てるんだよ」

「うるさい」


 自然にニヤけてたのかもしれない。そんなわかりやすかったのか。
 ポーカーフェイスは得意なほうだと自負していたのに、全くそんなことはなかったらしい。


「おまえは高校生か! 高校教師のくせに!」


 それを言われると痛い。
 高校教師のくせに高校生並か、笑えるな。


「ねぇ、こんなに首突っ込みたくないんだけどすごく関係性が気になる」


 高崎さんが目を光らせた時、病室の扉が開く音がした。
 何も言わずに入ってくるのは母しかいない。案の定、様子を伺うようにそっと部屋に入って来た。その姿に修哉も高崎さんもいきなり背筋を伸ばして黙り込む。


「あ、修哉くんが来てくれていたのね」

「ども、おひさしぶりっす」


 またも修哉が丁寧に頭を下げた。わざとらしいと言うか。
 高崎さんが会釈をして逃げるように病室を出て行った。母は苦手なタイプなのかもしれない。


「柊、明日退院ですって? まだ早いんじゃないの? 何時頃迎えに来ればいいかしら?」

「大丈夫だよ。仕事もそんなに休めないし、迎えもいらない」


 二十二歳にもなって親が退院の迎えとか恥ずかしすぎるだろ。
 来てもらってもマンションにあげるわけにいかないから逆に困ってしまう。


「あら、荷物多いじゃない」

「タクシー拾うし」

「あ、じゃあオレ来ますよ。明日は休みなんで。飯も作れるし安心してください」


 修哉が俺に向かってウインクした(いや、それはいらんだろ?)
 もしかして母をマンションに近づかないように協力してくれたのだろうか。修哉の申し出に母は納得した様子で「お願いね」と頭を下げた。

 さすが、持つべきものは親友だな。
 だけど修哉が飯を作れたかどうかは定かでは……ない(滝汗)


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Date:2013/09/07
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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