空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 89

第89話 よろこぶ彼女

悠聖視点




 六月になって制服が夏物になった。
 ブレザーがなくなってスラックスが薄手になっただけであまり変わらない。

 学校に行くと、この前の中間試験の上位三十位までが貼り出されていた。
 予想通りだったけど未来が一番、僕はとりあえず二位をキープすることができて安心した。


「悠聖、一位取られちゃったな」


 順位を見ていたら、後ろから健吾に抱きつかれた。
 「暑苦しい」と、その健吾を振り払うように手の甲でシッシッとあしらう。


「いやー悠聖を越えるって、弓月って本当デキるんだなぁ……」

「そうだね」

「悠聖、悔しくないの?」

「うーん……まぁ少しは?」


 本当は全然悔しくない。
 もともと未来は首席合格をしているんだから及ばないことはわかっている。むしろあの精神状態でこれだけの成績をキープできるのはすごいことだと思う。試験は兄貴が刺される前のものだけど、その前にも父親に酷い目に遭わされていたのだから。

 その本人は、順位なんか見ずに廊下の端で携帯を見ていた。うれしそうに笑っている。
 僕が携帯電話を覗き込むと未来が満面の笑みを向けた。


“お兄ちゃん退院するって”


 未来が僕に携帯の画面を向けた。


  『少し早いけど退院させてもらえることになった。明日の午前中には帰れるから』


 はしゃぐようによろこぶ未来。
 こんなにうれしそうな未来を見るのはひさしぶりのことだった。


“あ……”


 僕を見て急に未来ははしゃぐのをやめた。
 僕が笑いかけると俯いて口元だけで微笑む。いつもの控えめな笑顔だった。

 まさか、僕を気にしているのか?
 僕の前で兄貴のことをよろこんではいけないと思っているのかもしれない。


 気にしなくていいのに……未来がうれしいならそれで。


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Date:2013/09/06
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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