空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 88

第88話 痛いのは?

柊視点




 手術した後は下半身が痺れて動けなかったけど、麻酔が切れたからなのか時間が経つにつれて動けるようになってきた。

 思ったより傷が痛まなくて安心した。ゆっくりだけど歩けるようになったので退院を申し出たら、一週間は入院するように言われてしまった。


 手術から丸二日。
 実父からの連絡はまだない。


 消灯時間を過ぎた二十二時半頃、ウトウトしはじめた頃携帯が震えて目が覚めた。
 ベッドサイドの明かりをつけて画面を見ると修哉からだった。メールじゃなくて電話。大部屋だったら取らないけど、個室で扉も閉まっているから静かに話せば廊下までは聞こえないだろう。


「……よう」

『おぅ、元気か?』


 向こうから修哉の大きい声が耳に響いた。
 

「元気じゃない」

『え? 風邪でも引いた?』

「いや、入院中」

『はぁ!?』


 修哉の驚きの声が大きすぎて耳がキーンとなった。
 それのおかげで身体に妙な力が入ってしまい、傷にズキンと響いた。


『どういうことだよ? なんで言わないんだよ!?』


 興奮している修哉になんと説明すればいいか。
 いつも『兄弟』と言っている俺が修哉になにも伝えなかったからあいつの反感を買ったのに違いない。悪いことをしたと後悔した。申し訳ないけど修哉まで気が回らなかったのが事実だ。


『柊よ!』

「落ち着けって……」

『これが落ち着いていられるかって!!』


 ……これは理由を言って口止めしておかないといけない雰囲気になってきた。
 とりあえず自分が落ち着かないといけない。聞かれないよう小さく深呼吸を繰り返す。


「親父に刺された」

『え!? 実父の方?』

「ああ、詳しいことはまた話すから……おまえ瑞穂に言うなよ!」

『……わかったよ……ったく!』


 少し躊躇うように修哉がぼそっとつぶやいた。
 瑞穂にバレたらかなりやっかいなことになる。


「とりあえずすぐ退院するからその時話す」


 なるべく小声で話してはいるけど、廊下の向こうに聞こえていないかドキドキする。
 中学の時、隠れて煙草を吸った時のような心境だった。


『おまえ、未来ちゃんは大丈夫なのか? 今ひとりなのかよ』

「いや……悠聖と俺のマンションにいる」

『ふたりきりにしていいのかよ?』


 言いにくそうな口調の修哉の声。


「いいのか……って?」

『未来ちゃんと悠聖はつき合ってるんだろう? おまえ、いいの?』


 修哉の声が低くなって真剣みを帯びる。
 探るように聞かれたその言葉の意味を俺は理解した。


「いいも悪いも俺、今帰れないし」

『そうじゃねーよ。好きなんだろ?』


 ストレートに聞かれ、傷の辺りがズキンと疼く。


「……何が?」

『バカ! とぼけんな。未来ちゃんのことに決まってるだろ』


 苛立ったような修哉の声に逃げられないと感じた。
 だけど真剣に話すのはいやだった。何となく認めてしまいそうな気がして。


「――妹だよ」

『おまえ……だって……この前……』

「未来は妹だ。それ以上でもそれ以下でもない。消灯時間過ぎているから切るぞ」

『あ……おい!』


 何か言いかけていたが、そのまま通話を切ってしまった。



 痛いな。
 傷の痛みなのか胸の痛みなのかよくわからなくて、真っ暗闇の中大きいため息をついた。

 この感情を言葉にしてたとえるなら『好き』ということになるのだろうか。

 自分の気持ちすらこんなあやふやなのに、あんなに偉そうに未来に男女の関係について話したりしてかっこ悪いな、俺。


 思えば二十二年間生きてきて、まともな恋愛をしてきていなかったことに気づく。
 告白されればつき合って、別れてを繰り返していた。別れた理由すらも今は思い出せもしない。自分から別れを切り出すこともあったし、相手から切り出されることもあった。実際修哉といる時の方が楽しかったから、彼女がいても二の次三の次にしていた記憶しかない。

 こんな自分がまともな恋愛なんか出来る気がしない。
 瑞穂を好きかもしれない、と大学時代に意識した時も結局なくなってしまっていた。

 未来のこともそうやって自分の中から消えていくはずだろう。

 今はそう思うことしかできなかった。



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Date:2013/09/05
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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