第84話 消息不明の父柊視点
夕方、悠聖が見舞いに来てくれた。
あの写真を実父から預かった悠聖が立ち直れるか不安だった。そんな中、未来とふたりきりにするのは正直心苦しく、申し訳ない気持ちだったんだ。どんな顔をして未来に接すればいいか戸惑ったんじゃないかと思う。だけど硬いなりにも笑顔を見せてくれて胸のつかえが半分くらいとれたように軽くなった。
それと携帯の充電器を持ってきてくれたから助かった。
未来の母親に長文のメールを送った時点で残りの充電がほとんどなく、本当にすぐに切れてしまったから。もしかして未来からメールが来るかもしれないし、充電がないと本当に困る。
夕方、携帯の電源を入れて画面を見ると未来の母親から返信が来ていた。
ドキドキしながらそのメールをチェックする。
『佐藤 柊様。
お身体の様子はいかがでしょうか?
貴方にも本当に辛い思いをさせたことを心からお詫びしたいと思います。
小林は昨日から消息不明です。連絡をしても携帯に出ようともしません。警察もまだ来ていません。
未来と小林のことについてはただただ情けないばかりです。
未来の気持ちに全く気づいてやれなかった。母として失格だと思います。
小林との間が清算できたら未来を迎えに行きます。それまでよろしくお願いします。
あの子が事実を知られたくなかったと言うのなら私は知らないフリをしたいと思います。
知ってほしいと望むのなら一緒に抱えて生きていこうと思います。
未来ともっとたくさん話をして抱きしめてやりたいです。
あなたが小林 透(未来の本当の父親も小林姓でした)じゃなく健二さんの方の
息子さんだったと知り驚きましたが、それでも何ら変わることはありません。
私は柊さんを信頼していますし未来も同じでしょう。
私から貴方のことを未来に話すつもりはございません。
一日でも早い回復を祈っております。感謝とお詫びを込めて』
俺は心から安堵した。
未来の母親は俺の存在を認め、赦してくれた。そして俺が未来の義父の息子であることも内緒にしてくれると。
もう少し、あともう少しだけ……。
俺は未来の兄としていられることに感謝した。
だけど安心ばかりはしていられない。
実父が消息不明で警察も来ていない。未来の母親が連絡しても電話に出ないということは電源は入っているけど着信を無視しているということだろう。
もしかして図書館前で未来を待ちぶせしたりしないだろうか。
慌てて悠聖にメールを打つ。
『俺の実父が消息不明になっているらしい。
未来のバイトの迎えを確実に頼む。
図書館内で待ち合わせてくれ。あの庭は視界が悪いから夜は危険だ』
悠聖に任せておけば未来は大丈夫だろう。
あとは実父にもひと言いってやらないと気がすまなかった。怒りと動揺が入り交じり、手が震えるのを押さえながら時間をかけてメールを作成した。
『俺は無事だ。弓月親子とはキッパリ縁を切ってくれ。
これ以上未来を苦しめないでくれ。二度と関わらないと約束して欲しい。
それを守ってくれれば昨日の件について告訴はしない。だから頼む』
実父が俺からのメールを読むかわからないけど、思いが通じることを祈ることしかできない。
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