空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 81

第81話 蝕まれる心

悠聖視点




 起きたら未来がいなかった。

 慌てて何回も未来の携帯にコールし続けたのに全然出てくれなくて泣きそうだった。
 人差し指の痛みが未来の存在を僕に思い知らせる。昨日あんな自殺まがいなことをされて不安にならないわけがないだろう。もちろん未来が本気だったのがわかるから怖いんだ。

 未来の部屋に制服がなかったので学校に行ったのかもしれないと思った時、兄貴からメールが来た。


  『未来が病院に来ているから迎えに来てやってほしい。
   俺が退院するまで、未来を守ってやってくれ。頼む』


 メールを読んで声が出そうになった。でも変なことを考えていなくてよかったと人心地ついた。
 未来はひとりで病院へ行ったのだろうか。僕らの母親がいると思わなかったのだろうか。何も考えずに兄貴に逢いに行ったのか、疑問ばかりが浮かんできてしまう。


 僕が兄貴に逢わせてあげると言った時、断ったのに……なぜ?


 兄貴も自分が退院するまで未来を守れだなんて。
 未来をずっと守るべきなのはこの僕じゃないのか? 


 いろんな思いで頭の中がぐちゃぐちゃになりながらダメ元で未来に電話したらやっと繋がってくれた。
 迎えに行くから待っているように伝えると、約束してくれた。それなのに、なぜか胸が痛くて締めつけられそうになった。

 未来が約束を守ってくれないから。
 約束をしても守れないくらいの精神状態なのかもしれない。


 兄貴にも、そして未来にも言いようのない苛立ちを感じていた。



**



 病院に着くと、未来は兄貴の病棟の非常階段にいた。
 ひとり寂しそうに膝を抱えて座っているその姿はまるでボロボロの捨て猫のように見えた。今度は約束を守って待っていてくれた。それだけでほっとした。
 
 泣き腫らした未来の目を見て僕の不安はさらに募る。

 このままでは“奪われる”と思った。それも自分の兄貴に。

 卑怯だと思いつつ未来をきつく抱きしめた。
 そして言葉で誘導した。ひと言ひと言、間を空けながら強い思いと願いを込めて。


「未来、僕は兄貴と約束をしたんだ。君を守るとね。だから君は僕の傍にいるんだ。いや、いないといけない」

「兄貴が帰ってくるまであの家で今まで通り生活しよう。未来は学校へ通ってバイトへ行くんだ。毎日僕が迎えに行くよ」

「そうやって一日一日過ごしていれば兄貴は必ず帰ってくる。ひとりでどこかへ行こうなんて思わないで」

「そう思うことが結果的には、僕にも兄貴にも心配をかけることになるんだよ」

 
 最後の言葉はある意味追い討ちだった。

 それを未来は身体を硬くして聞いていた。
 悲しそうな顔をして俯いている。唇は何度も「ごめんなさい」と動いていた。


「僕が君を守るから」


 そう耳元で囁くと未来は瞼を一回閉じてうなずいた。
 僕が唇を寄せると彼女は潤んだ瞳をゆっくり閉じて、それを受け入れる。



 未来が僕を拒むことなんてできないとわかっていたんだ。
 だけど未来の身体は少しだけ震えていた。
 
 僕は本当に自分が汚い人間だと悟った。


 ごめん……ごめんな……未来。

 それでも僕は君を手放したくないんだ。


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Date:2013/09/02
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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