空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第16夜 翔吾side

 
 どうして? どうして?


 何がなんだかさっぱりわからなかった。
 今までと全く違う態度。仕事を頼んでも何の返事もない。
 救いなのはちゃんと頼んだ仕事はこなしてくれることだけ。
 
 俺は彼女の反応を見るのが好きだったのに。
 もちろん仕事をしてもらえる上での付随だということは理解している。だけど――
 

「風間さん、これあとで総務課へ持って行ってもらえませんか?」


 ちゃんと彼女のほうを見て手渡しているのに、彼女はパソコンの画面を見たままそれを無言で受け取り、こっちを見ようともしない。


「ついでに人事課へ行った時、これを……」


 同じように受け取られる。
 何をしても同じ反応しか返って来ない。
 これが無視と言わずなんと言おうか? ってくらいのあからさまな拒絶。


「あの……風間さん……」

「風間ちゃん! 十四時になったら第一会議室にお茶五つ頼める?」

「はーい」


 三浦さんの頼みには笑顔で答える彼女。
 しかもいつもみたいにもじもじしないでちゃんと三浦さんを見て笑いかけている。
 俺の声なんて聞こえていないようにあっけなくスルーされた。
 
 三浦さんが好きなのか?
 いや、俺が嫌いなのか?
 
 年明けからこんなにモヤモヤした気持ちになるなんて……。
 今年こそは彼女と少しずつ仲良くなるきっかけを作っていこうと思っていたのに。


 急にこんなに態度が変わるなんて思ってもみなくて、俺は自分が思っている以上に深いショックを受けていた。

 いやだ……彼女に嫌われたくない。
 どうしたらいいのかさっぱりわからなかった。




「雨宮ー凡ミス」


 三浦さんから突き返された企画書は俺が作成したもので、誤字脱字のオンパレードだった。
 その部分に全て赤丸がつけられていて、その多さに恥ずかしくなり、顔が熱くなった。


「オレは赤ペ○先生かってーの」

「すみません……すぐに直します」

「もういいや、やる気ないならこっちでやるし」

「すみません! すぐっ! 五分で直しますからっ」


 立ち上がって頭を下げると、三浦さんが少し困ったようにうなずいて去って行ってしまった。

 この時、彼女が隣の席にいなくてよかったと思った。こんなみっともない姿を見られたところを想像したらさらに顔が熱くなる。
 ダメだ、こんな気持ちで仕事なんかできない。ちゃんと切り替えないとまた同じミスをする。

 彼女の隣の席で仕事をする気になれなくてPC室に移動し、すぐに修正作業に取り掛かった。




 仕事を済ませ、頭をクリアにしていろいろ考えた。
 今までのやり方じゃ絶対に彼女をモノにできないと悟った俺。
 積極的に行動しようと心に誓ったのだ。


 でも、どうやって?


 今まで女を口説いたことのない俺がどうやって彼女を口説き落とせるのか?
 彼女はどんな男がタイプなんだろうか?
 優しい? 男らしい? いや、逆に子どもっぽい方がいいのか? それとも俺様タイプ?


 そんなの誰に聞けばいいんだーっ!


「隣、いいですか? 今日満席で」


 食堂の窓際の席でカレーを食っていると、彼女の同期の水上咲子さんが俺の左斜め後ろから声をかけてきた。
 これは天が与えたチャンス?
 

「あの、水上さんくらいの女性ってどういう男性がタイプなんですか?」

「――は?」

 
 怪訝な表情が返って来る。
 やべ、俺、変な聞きかたしちゃったかもしれない。


「えっ、あの……相手の性格とか、言われてうれしい言葉とか……」

「どうしたんですか? 雨宮さん?」


 水上さんが少し心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
 このままじゃ俺、不審者扱いされてしまうかもしれない。


「いや、ごめん。忘れてください」


 なんて質問したらいいかもわからずつい訊いてしまって墓穴を掘った感アリアリな自分が情けなくなった。大きなため息を漏らすと、左隣に座った水上さんがくすくす笑う。


「雨宮さん、女の子の気持ち知りたいんですか? 扱い慣れてそうなのに」

「いや……」

「私、何か協力できそうですか?」


 思いがけない水上さんの申し出に、俺は目を見張った。
 ニコニコと微笑む水上さんが天使のように見えたのは勘違いではないはず。

 その日、俺は水上さんと携帯のアドレス交換をした。




 水上さんとはすぐにメールでよく話せるようになった。

 同じ課の女性社員の話を振ると、彼女以外の話をされてしまうが、それなりにいろいろ課の内情が知れて楽しかった。
 ボス的なポジションは高畑さんだとか、休憩時間は大体どこにいるとか。

 このくらい彼女とも話せるようになれたらいいのにと思うけど、最近さらに話しかけづらくなってしまっていた。
 かなりガードが硬くなったというか、声をかけようとすると席を立ってしまう。
 自らのテリトリーに入り込むなと言わんばかりの激しい拒絶に心が折れそうになったほどだ。
 
 水上さんも社内で話しかけられることを異様に嫌う。
 話はメール、もし直接話したいのであれば社外でと最初から言われていた。
 
 俺と話しているのを他の人に見られるのがいやなのだろうか?
 そんなに俺、女性社員に嫌われてるのかな……?
 それなりに異性としてわきまえて接しているつもりだったんだけどな。


 雨宮って女の気持ちとか全然わかってないし、最悪だよねー。あいつと話した人はハブねとか女性社員の間で言われてたらどうしよう。
 だから彼女も俺と口を利かなくなった……とか?

 もしかして、俺が話しかけたから……彼女はひとりになってた?





「ばかじゃねーの? なにその解釈」


 三浦さんに相談したら腹を抱えて笑われた。最悪だ。
 外回りの帰りにシズールに寄って軽い気持ちで話したら、三浦さんは笑い転げてひーひー言っている。


「そんなに笑わなくたっていいじゃないですか! 実際普通に話しかけてくれるのって高畑さんくらいですから」

「いやー、わりーわりー。だっておまえの解釈って……逆は考えないのか」

「逆?」

「いやー、おまえ自分のこと全然わかってねーのな。思うとおりに突っ走ってみれば?」


 思うとおり……。
 俺が思うとおり突っ走って彼女に嫌われたら。
 いや、もうすでに嫌われているのなら何しても同じか。


 その日の夜、水上さんにメールをして彼女の携帯の番号を訊いた。

 水上さんは個人情報だからと拒否したが、仕事のことでどうしても今日中に伝えたいことがあるからと頼み込む。嘘をついて彼女の番号を聞き出すなんてよくないと思いながらもどうしても知りたかった。

 すると、しぶしぶ水上さんが彼女の番号を教えてくれた。
 自分が教えたことは内緒ですよ、と念を押された。もちろんそれは守るつもりだ。


 こんなに本気になるつもりなかったのに……。
 いや、本当はなっちゃいけないはずなのに、興味本位で近づいた俺への報いなのだろうか。

 だけど今さら引くことなんかできない状況にまでなってしまっている。もう止められない。


 そして、俺は腹を括って彼女のテリトリーに踏み込むことを決意した。


→ NEXT
→ BACK
    web拍手 by FC2
*    *    *

Information

Date:2013/02/08
Trackback:0
Comment:0
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://ageha572.blog.fc2.com/tb.php/20-d82fdcc1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)