空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 78

第78話 わたしの決意

未来視点




 気がつくと夜中の三時をまわっていて、隣で悠聖くんがよく眠っている。
 起きて枕元に置いた携帯電話を見るとメールが一件、母からだった。


  『家に帰ったら誰もいなくて部屋の中が血まみれでした。お父さんに連絡がつきません。
   あなたも無事なら連絡を下さい。何時でもいいから待っています』


 受信したのは夜中の一時近く。全然気がつかなかった。
 家に誰もいなかった、ということは義父は自首したのかもしれない。


  『わたしは無事です。義父さんのことは知りません。疲れたので休ませて』


 それだけ送信して再び目を閉じた。
 もう何も考えたくなかった。心の中で母に詫びながら再び目を閉じようとした時、隣で眠っていた悠聖くんが目を覚ました。わたしが携帯をいじってメールをしていたせいだ。悪いことをした。


「メール? 誰?」

“お母さん”

「えっ? 帰って来ているの?」


 母から来たメールを悠聖くんに見せた。


「僕が電話する。ちゃんと事情を説明するから」


 悠聖くんが起き上がって電話をかけようとしたからわたしは首を横に振った。
 怪訝な顔で彼が「どうして」とつぶやく。その携帯を受け取って文章で伝えた。わたしが文章を打っている間もずっと彼がその画面を凝視していたのがわかる。その空気がやたら重く感じた。


『なんて説明したらいいかわからない。全部説明したらわたしが義父から受けていたこともすべて話さないといけなくなる。お母さんは何も知らないの』

「……でも」

『明日話すから。全部』


 覚悟を決めた。もう隠し通せないところまできてしまったんだ。
 早く話しておけばこんなことにならなかったのかもしれない。お兄ちゃんを巻き込まなくてすんだのかもしれない。

 悠聖くんの大きな手がわたしの頭をぽんぽんと撫でてくれた。

 
「兄貴の手術無事終わったって。もう大丈夫だ」

“本当?”


 びっくりして跳ね起き、悠聖くんを見ると優しい笑顔でうなずいてくれた。
 ほっとして力が抜けた。お兄ちゃん大丈夫だったんだ。よかった。


「兄貴に逢いたい?」


 真剣な顔の悠聖くんにそう聞かれたので、『逢いたい』とわたしも真剣な顔で答える。


「明日逢わせてあげる」


 悠聖くんが優しく笑った。
 でもわたしが病院へ行ったら、悠聖くんの家族はいやがるはず。きっと追い出されてしまうだろう。

 だからわたしは、首を横に振った。


「どうして? 兄貴に逢いたいんだろう?」


 問いただすような悠聖くんに、わたしは目を合わせられない。
 逢いたいに決まっている。だけど悠聖くんの家族にまで迷惑をかけたくない。悠聖くんだって逢わせてくれようとしてきっと無理をするはずだ。『逢いたい』と言わなければよかったと少し後悔した。


 そのまま横になって悠聖くんに背中を向けると、後頭部をそっと撫でられた。
 これ以上優しくしないで。もうお兄ちゃんにも悠聖くんにも迷惑かけたくない。



**



 朝六時。

 ベッドから起き上がると悠聖くんが気持ちよさそうに眠っていた。
 わたしがみんな毛布を引っ張ってしまったみたいで悠聖くんは何もかけていなかった。毛布をかけ直すと彼は少し身を縮めた。
 
 悠聖くんの左頬にそっとキスを落とす。

 本当にありがとう。大好きだった。





 静かにベッドから抜け出して洗面を済ませ、制服に着替えて鏡を見た。

 これから母に本当のことを話しに行く。
 わたしの身に起きていたことをすべて話すの。母はきっと泣くに違いない。だけど話さないとどうにもならない。

 わたしが臆病だったから、たくさんの人を巻き込んで傷つけた。


 ごめんなさい。そう謝っても許してなんてもらえないよね。

 ごめんね。お兄ちゃん、悠聖くん。


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Date:2013/08/31
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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