空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 77

第77話 ずっとそばに……

悠聖視点




 未来の家を逃げるようにふたりで飛び出してタクシーに乗り込んだ。

 乗った後、未来はずっと僕の腕の中で震え続けていた。
 大丈夫だと言ってあげたかったが、何が大丈夫なのか自分でもよくわからなくて言えなかった。そして、そんな言葉を未来がほしがっているとも思えなかった。


 その分僕は指の痛みを感じながらもずっと未来の頭を撫で続けていた。
 彼女はなんであんなことをしようとしたのか、何があったというのだろうか。部屋の中の血も含めて。


 考えたくはないけどあの部屋に残された血痕は兄貴のものだろうか。
 あの写真のことで未来の家に行ったのかもしれない。行き先を聞かなかったことを今更後悔した。だけど聞いていたとしても僕が止めたって兄貴は行くのをやめなかっただろう。


 未来のために実父と話をつけに行った兄貴が刺された。
 僕があの写真を兄貴に渡さなかったらこうはなっていなかったのかもしれない。証拠もない、ただの想像に過ぎないけど。これ以上深く考えたくなくて、僕は思考を止めた。



**



 そのままひと言も話さず兄貴のマンションへ戻った。
 未来を浴室に誘導してから母に『兄貴の手術が終わったら連絡がほしい』とメールの送信をした。勝手な内容だと思うけど今はしょうがないと自分に言い聞かせる。

 リビングのソファの左にあるキャビネットの上の写真立てが伏せられていることに気がついた。
 それを手にとって見てみると、うちの家族四人の写真だった。兄貴はこれを未来に見せないように伏せたのかもしれない。その写真立てを同じように伏せておいた。


 シャワーを浴びた未来はまた兄貴のあの大きい紺色のパジャマを着ていた。
 泣きそうな顔で一生懸命右腕の袖を折ろうとしている。それを折ってやると未来がボロボロ泣き出した。


“お兄ちゃんに逢いたい”


 そう唇を動かして震える未来の身体を抱きしめると胸が苦しくなった。
 こんなにも兄貴を欲している。こんな状況なのに兄貴に嫉妬している自分に腹が立った。



 未来が落ち着いた後、僕もシャワーを浴びて兄貴のパジャマを借りた。
 兄貴のベッドの壁側に未来を寝かせその隣に僕も横になる。枕元に携帯を置いていつでも連絡が取れるよう準備しておいた。未来は僕の方に背中を向けて横になっている。


 未来を助けることができて心から安心した。
 病院から足止めの電話を未来にかけ、大通りでクラクションを鳴らされる音を聞くことができなかったら彼女が自宅の方へ歩いていることすらわからなかった。歩道橋を渡り終える未来の姿を見つけることができたのは奇跡だと思う。こっそり距離をとって彼女の後をつけていたこともバレずに済んでよかった。
 
 負傷した人差し指が痛いけど構わない。
 未来が生きていてくれれば、指の一本や二本失ってもいいとさえ本気で思っていたんだ。

 未来が父親の握るナイフで自殺しようとしていた事実はいまだに恐ろしく、目を瞑っても何度も甦ってくるようだった。
 


** 



 枕元の携帯電話が震えたのは夜中の一時を過ぎていた。
 見ると母からのメール。


  『柊の手術は無事に終わったわ。命に別状はないとのことです』


 心から安堵のため息をついた。
 未来を見るとメール着信の振動音にも気づかないでよく眠っていた。仰向けであどけない顔をしてる。

 僕はそっと未来の左頬にキスをした。


 ずっと、ずっとそばにいるよ。


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Date:2013/08/31
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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