空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 70

第70話 君にとっての僕って?

悠聖視点




 兄貴の話を聞いて、僕は放心状態になった。
 サワサワと吹く優しい風が少し生ぬるく感じた。もう初夏の陽気に近づいているのだろう。


 未来と兄貴は異母兄妹じゃなかった。
 それなのにひとつ屋根の下に住み、兄貴の腕枕で心地よさそうに眠る未来。それを思い出したら兄貴に嫉妬を覚えないわけがなかった。

 未来が兄貴のために捨て身の行動を取ったのも納得がいかなかった。

 もし兄貴の父親からもらった封筒を僕が見ないでそのまま未来に渡していたら、次は僕のために彼女は同じように捨て身の行動を取る。そう考えたら身震いがした。そんなの絶対にいやだった。

 なんでそんなにすべてをひとりで抱え込む。なんで僕に相談してくれないんだ。
 僕にひと言でも相談してくれれば、一緒に悩んで考えたのに。僕はそんなに頼りないのだろうか。


 未来がされた酷い仕打ちを知っていることだって黙っていないといけない。
 僕は未来の辛い思いに寄り添うことすらできないんだ。悔しいし、すごく情けない。


 未来にとって僕はなんなの? 彼氏じゃないの? 悩みも打ち明けられないの?
 自分が情けなくて涙が出てくるよ。





 ゆっくりベンチから立ち上がって歩き始める。
 兄貴が図書館に入っていって十分くらいしてからその入口に向かった。


 この図書館内に入るのは初めてだ。
 未来は書架の整頓と配架の仕事だと言っていた。知った顔が近くにいたら気を遣うだろう。極力近づかないように、学生の多そうな自習室にもぐり込んだ。

 六人掛けの机が九つと窓際に長い机があり、ほぼ満席状態だった。
 長い机の方は少しスペースが狭いけどひと席ごとに仕切りがあるから勉強しやすそうな造り。

 真ん中辺りのひとり席に座り、窓の外を見た。ここから図書館の庭がよく見える。
 携帯を見ると十七時半になりそうだった。その時持っていた携帯が震えた。兄貴からメールだ。


  『今日、十九時に未来と約束したから迎えに行ってくれ』


 さっき口頭で約束したのに、本当に未来の心配をしているんだな。
 兄貴はどこに行くつもりなんだろうか。行き先を言ってなかったから気になるけど、『了解、必ず行く』とだけ返信しておいた。



 十九時までここで時間を潰すことにした。
 静かで勉強がはかどりそうだ。そう思って勉強道具を出したが、全く頭に入ってはくれなかった。


 悪いのは未来ではない、わかっているのに今まで通りでいられない気がしていた。
 真実を知ってしまったことに後悔がないとは言えない。だけど知っていても心の奥に留めておくだけなら、知らなくてもよかったことのような気がして。

 そうやって逃げていても仕方ないのに。

 自分が未来の立場だったら、彼女のように身を擲つことはできるだろうか。
 未来のためならするかもしれない。そのくらい僕は彼女が大事だ大好きだ。未来にとって兄貴もそうなのかもしれない。そしてもしそれが兄貴じゃなく僕が対象でも同じようにするだろう。

 何度考え直しても、未来が兄貴を守ったことはやっぱり完全には納得できない。
 だけどそれは自分の醜い嫉妬心からなんだと思う。未来がしたことを兄貴も僕も納得できなくても、彼女にきっと迷いはなかったのだろう。人を大事に思うってそういうことなんだ。きっと未来が守られる立場だったとして同じことをされたら、彼女だって今の僕や兄貴と同じように苦しむはず。

 僕は、未来の全てを受け止めよう。
 今の僕にはそれしかできない。何があっても好きだって、未来の過去を聞いた時に誓ったんだ。

 そう決断できたことに少しだけ安堵した。


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Date:2013/08/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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