空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 66

第66話 露呈された真実

柊視点




 その時、俺は数学教務室で未来の母親にメールをしていた。


 写真と一緒に送られてきた封筒の中には二十万円もの現金が入っていたのだ。
 それは受け取れないということと、実家から戻られたら一度お会いしたいといった内容のメールだ。

 こんな感じの文章でいいか確認していた時、携帯電話が震えた。

 悠聖からの電話。メールじゃなくて電話なことにいやな予感しかしなかった。
 あいつが俺の仕事中に電話をかけてくるようなこと今までなかった。急用だろうとすぐにわかり、気が急いた。


「――もしも」
『兄貴っ? どういうことだっ!?』


 いきなり悠聖の怒声が聞こえ、驚いて携帯を耳から離した。
 こっちの挨拶すら聞く余裕もなく、我を失ったような悠聖の様子に否が応でも緊張が走る。


『未来に何があったんだっ!?』

「悠聖? どうした?」

『未来に……がっ……っ!』


 苦しそうな荒い息遣いに加え、悲痛な叫び声が妙な雑音と共に聞こえてくる。
 悠聖の声が反響してしまっているのか、酷く聞き取りづらくて全く状況が掴めなかった。


「おい、未来がなんだって? 落ち着けよ!」

『……がっ!!』

「悠聖? おい、今どこだ?」


 悠聖の様子がおかしい。
 体調が悪いのとは違うようだ。しきりに『未来』と言っているのが聞こえる。


『未来が……っ! 助けて……』

「悠聖! しっかりしろ! 未来は? おまえは今どこだっ?」


 本当はこっちが冷静になってやらないといけないはずだ。
 だけど悠聖の全く伝わってこない発言にこっちも焦り、つい声を荒げてしまう。椅子の背もたれにかけていたジャケットを取り、鞄を手にして数学教務室の扉を勢いよく開けると。


「――っ!?」


 金子麻美が扉口に立っていた。


「柊先生? 未来って……?」


 俺を上目遣いに金子が見つめている。
 聞かれていたか。金子は未来のことを知っている。一番まずい生徒に聞かれてしまった。かといって弁解している時間もない。

 金子の右肩を叩いて横を通り過ぎ、その場を後にした。



**



 悠聖から電話がかかってきて約二十分で図書館に着いた。
 図書館の門の内にある庭のベンチに悠聖のうずくまった姿を見つける。名を呼ぶと、その身体がビクッと反応した。ゆっくり頭を上げて、うつろな目で俺を見つめた。


「未来はどうした?」

「……」

「おい! しっかりしろよ!」

「……バイト中だ。中は見ていないけど……」


 悠聖が持っていた白い封筒を俺に差し出した。
 ベンチに鞄を置いて、立ったまま中身を確認する。


「……これは」


 義父と未来のあの時の写真と、脅迫内容の手紙。
 しかもきわどい姿のものばかりで、放心状態の未来の身体に散らされた無数のあざもしっかりと写っていた。

 二度と見たくない、思い出したくないあの時のシーンが脳裏に甦って、軽い眩暈がした。


「これ、誰から?」


 俺の質問に悠聖が力なく首を振る。


「誰からもらった?」

「……知らない……男」


 ――こんな写真を撮れるのは実父しかない。
 こんな卑劣な手紙まで、しかもなぜ悠聖に渡すんだ。

 なぜ悠聖が俺に電話をかけてきたのか、今ようやくわかった。
 この未来宛の手紙に『おまえの兄』と書かれているから俺が関わっていると思ったのだろう。しかも悠聖は未来が俺の実父に性虐待を受けていた過去を知っている。

 あの時、正直に性虐待の事実を話したことは間違いだったのかもしれない。
 後悔しても遅いのはわかっている。だけど、また悠聖を苦しめることになってしまうのが辛かった。
 

「あの男……兄貴の父親?」

「……ああ」


 少し間を空けて悠聖の質問に答えた。
 認めたくはない……だけど認めざるをえない。


「なに? 兄貴の父親……未来を犯したの?」

「……」


 答えられなかった。


「……どうなの?」


 俺はゆっくり悠聖の左隣に座る。
 それと同時に小さくうなずいた。悠聖の目が真っ赤になって震えている。


「なんで? いつ……未来にそんな……」


 俺の耳の中で悠聖の声が遠くに聞こえる。
 フィルター越しに聞いているみたいだ。他にも何か言っているようだけど入ってこない感じだった。


「先週の……未来が熱を出した日の、前日」


 悠聖が両手で顔を覆う。
 その表情を窺い知ることはできなかったが、小さな嗚咽が漏れていた。


「なんで未来にそんなことするの? 未来の実の父親だろ? なんで実の娘にそんなことができるんだよ……」


 悠聖の心からの叫びを聞いた。肩が小刻みに震えている。
 まるであの日、実父と喫茶店で会った時の俺の姿を見ているようだった。

 このまま悠聖に真実を隠しておけない。


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Date:2013/08/25
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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