空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 65

第65話 忍び寄る魔の手

悠聖視点




 図書室の返却本をすべて戻して、未来を図書館まで送る。
 明日またたくさん返却本があったら全部橋本先輩に押しつけてやろうと思った。


 あの橋本先輩のデジカメの動画を観て、未来と一緒にいるサラリーマン風の男が自分の兄貴だと知ったということをようやく彼女に話すことができた。車のナンバーですぐにわかったということも付け加えて。
 未来はあの時かなり驚いたと話した。それはそうだろう。どうやってあのマンションまでたどり着いたのかもわからなかった、と。今だから笑い話として語れるくらいだ。

 まさか僕と兄貴が兄弟だとは思わなかったって。
 同じ佐藤だけど、全く疑ってなかったらしい。似てないから。


「じゃ、ここで」


 図書館の門の前で未来にそう告げると、彼女がうなずく。
 本当はもっと一緒にいたい。でも、もうバイトの時間になってしまう。


「未来……ちょっと」


 図書館の門の内側に未来を引っ張る。
 丁度入ったところに大きい木があることを知っていた。その木に未来の身体をそっと押しつけると、驚いた表情で僕を見上げる。


「目、閉じて」

“えっ?”

「いいから、早く」


 僕が急かすと、未来がギュッと目を閉じた。
 すかさず彼女の右の瞼にキスをする。その感触に未来が小さく身をすくめた。それがかわいくて、左の瞼にも同じようにキスを落とす。唇にもしたいけど、今はやめておく。この前無理にしたから。

 真っ赤な顔の未来が、少しふくれたように僕を見た。


「あとでメールするよ」
  

 照れくさそうに微笑んでうなずいて、小さく手を振りながら図書館の方へ向かって行く。
 未来は本当にかわいい。僕だけのものにしたいと切に願ってしまう。こんなにそばにいるのにいつも不安だなんて。


「……あの」


 図書館の中に入って行く未来の背中を見送っていたら、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、見たこともない四十代後半から五十代前半に見える中年の男性だった。くたびれたグレーのジャケットに色が褪せたデニム、黒のキャップを深々と被っているが、口元に刻まれたしわは隠しきれていなかった。

 やべ、今の見られていたかな、と思いつつ知らん顔をして「はい?」と返事をすると、その男の人は、僕の顔を品定めするようにまじまじと見つめてきた。


「今の子の恋人?」

「――は?」


 不躾な質問に僕はきっと変な表情をしていたと思う。
 相手の表情は帽子のツバに隠れてよく見えなかったが、なんだかとっても感じが悪く思えた。


「これ、渡しておいてくれないかな?」


 その男の人が人差し指と中指の間に挟んだ白い封筒を僕に差し出す。
 宛名も何も書いていない。裏返しにしてみてもそこにも何も書いていなかった。つい受け取ってしまったけど、とてつもなく怪しい。


「頼む」


 そのまま踵を返して、その男の人は図書館の門から出て行こうとした。
 これを未来に渡せってことなのだろうか。一体誰なんだ? 彼女の知り合いなのか?


「ちょっと待っ……」
「あ! そうだ」


 引きとめようとする僕の声を掻き消すように、男の人は振り返って思い出したように声をあげた。


「中は見ない方がいいよ。君のためだ」



 その男の人は、さらに深く帽子を被り直して足早に去って行った。
 一瞬、帽子のツバの陰から覗き見えた口角が少しだけあがったように感じたのは気のせいなのだろうか。かなり怪しい雰囲気を残していったのには間違いない。

 それにこの謎の封筒。見ると、封が糊付けされていない。
 これじゃ「見ろ」と言わんばかりじゃないか。あんなに念を押して『中は見ない方がいい』と強調し、忠告をしていたのに。本当に見られたくないなら、糊付けしておくはずだろう。しかも『君のため』だなんて。ますます怪しい。

 預かった手前、変なものだと困る。渡すものの中身を知らないっていうのも受け取る未来は不安だろう。


「……」


 鞄を植え込みの芝生の上に置き、封筒の中身を取り出した。


「……え?」


 中から出てきたのは数枚の写真。
 すべて未来のものだった。


「……なんだよ……これ」


 制服を乱された状態の未来が横たわっている写真。


「――!? 嘘だろう!!」


 僕は無意識に叫んでいた。
 未来のスカートの先から伸びる片足に、ぶら下がるように白い下着が映っている。その身体に馬乗りになって撮ったであろう角度の画像が数枚――

 写真の他にメモ紙が一枚入っていた。
 それを広げるが、手が震えて引きちぎってしまいそうだった。


  『おまえの兄は約束だから勘弁してやる。
   ただしおまえの処女を奪った奴を守りたかったらもう一度抱かれに来い。忠告は一回だ』


 今の男は未来の父親なのだろうか。
 もう一度抱かれにってことは……過去に一回あったってこと――

 ようやく読めたメモの内容に吐き気を覚えた。
 実の娘になんてことを……目の前が真っ白になりそうだった。全身がガクガクしてどうにもならない。最後に見た焚きつけるような下卑た笑みを思い出し、身の毛がよだつ。


 制服のポケットから携帯電話を取り出した手は震えが止まらなかった。



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Date:2013/08/25
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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