空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 53

第53話 進むべき道

未来視点

性虐待シーンがあります。苦手な方はお戻りください。




 十九時になり、重い足取りで図書館を出た。

 どうしよう、今日家に帰らないとお兄ちゃんが義父に酷い目に遭わされるかもしれない。
 でも、お兄ちゃんはひとりで義父に会うなって言う。その思いを裏切ることもできない。だけどこのまま義父の言うことを無視し続けたら――


 図書館の門の前に人が見えた。だけどお兄ちゃんじゃなさそう。
 よく見ると、その人は修哉さんだった。わたしのほうを向いて、軽く手を挙げた。

 「君を待っていた」と言われ、悪い予感しかしなかった。
 お兄ちゃんがいないところでわたしを待っている、それが何よりの証拠だ。お兄ちゃんにこのことを知られたくないから、いないところで待っていたのだろう。

 もうすぐお兄ちゃんはここに来る。その前にわたしと話をしたいと思ったのかもしれない。
 ある意味修哉さんは賭けに出たのだろう。
 
 とっても硬い表情をしているのが暗くてもよくわかる。門のそばの外灯の光が逆光になってその表情を隠しているようにも見えた。


「柊から、あの家から離れてくれないか?」

「――!!」


 修哉さんがわたしに深々と頭を下げた。


「頼む! 瑞穂は柊が好きなんだ。君との関係を疑っている。一昨日前からずっと泣いて何も食わないし、よく眠りもしない」


 瑞穂さんがそんな状況になっていたなんて。
 あの元気な、いつも笑顔で優しい瑞穂さんがそんなに苦しんでいる。そう思ったら、わたしの胸は張り裂けそうになった。


「頼むよ、未来ちゃん。柊を瑞穂に返してやってくれ」


 ずっと頭を下げたまま、修哉さんはわたしに言った。
 わたしはゆっくり修哉さんの右肩に手を伸ばし、軽く叩いた。すぐに修哉さんが顔を少し上げ、切なそうな目でわたしを見る。

 修哉さんは、瑞穂さんが好きなんだろう。
 だからこんなにも一生懸命に、瑞穂さんのために。その気持ちが痛いほど伝わってきた。

 困ったような悲しそうな申し訳なさそうなその修哉さんの顔を見て、わたしは一度だけうなずいた。



**



 ひさしぶりにこのアパートに帰ってきた。二度と戻りたくはなかった。
 でも、わたしが戻る場所はここしかない。
 
 今、この家には義父しかいない。母は実家だ。
 だからここに帰って来たらどうなるかはわかっている。わかっていて戻って来た。後悔はない。これがわたしの進むべき道なんだろう。


 あの家にわたしがいなければ、瑞穂さんは元気になる。
 わたしがこの家に戻れば、お兄ちゃんは――


 喉元にたまった唾を飲みこんで、ゆっくり縁側から茶の間の扉に手をかける。
 テーブルの上に一升瓶の日本酒とコップが置いてあるのが見えた。その前に義父が座っている。


「おかえり、未来」


 その声にわたしの心臓はギュッと掴まれるようだった。
 靴を脱いでから縁側から茶の間に入り、後ろ手で引き戸を閉めた。


「どこに行ってた? 心配したぞ」


 義父が立ち上がり、わたしに一歩一歩近づいてくる。
 その都度、茶の間の畳が軋む音を立てる。わたしは手を握りしめ、逃げたい気持ちを押し殺した。

 どこに行ってた? だなんて、知っているくせに……。


「そんなに怖がらなくてもいいだろう?」

「――っ」


 義父は左手でわたしの顎を挟むようにして持ち上げた。
 舐めるようにまじまじと顔を見つめられて目を逸らす。真正面から見るのが怖かった。義父が小さく笑う声が聞こえる。義父の手に力が入り、無理やり視線を合わせられた。


「こんなに親を待たせて……悪い娘だ」


 笑ったような、でも怒ったようにも見える義父の顔。
 震える手でポケットから携帯電話を取り出し、義父に見せた。そこには前もって入力しておいた義父への願いが刻まれている。

 それを見た義父の唇が、にいっと弧を描いた。


「わかった、約束しよう。こっちに来なさい」


 義父の手がわたしの右手首を強く掴んだ。そのままわたしの部屋に引きずり込まれる。
 床にはすでに布団が敷いてあった。想像していたこととはいえ、目を逸らしたかった。喉元からこみ上げてくるような感情をかみ殺すことしかできない。


 そこに強引に押し倒される。
 声なんか出ない。出たとしても、どうにもならない。すぐに義父がわたしの身体に覆い被さってきた。


「……っ!」


 目を閉じて、唇を噛みしめる。

 乱暴にブラウスの前を引き裂かれ、ボタンが飛んだのがわかった。首筋に唇が吸いつく。
 ぬめっとした感触を目を閉じてやり過ごす。生暖かいねっとりした舌が鎖骨の辺りを舐りながら、何度も吸い付かれる。ちりっとした痛みをあちこちに感じた。

 荒々しい息遣いが傍で聞こえる。手はわたしの胸を弄りながら、もう一方の手がスカートをたくし上げショーツの上から敏感な部分を擦るように触れた。

 びくり、とわたしの身体が跳ねる。義父が愉しげに鼻で笑う声が耳をつく。
 同じところを何度も擦られる。いやなのに、こんなふうに反応したくないのに、身体がびくびくと波打つように揺れてしまう。自分の身体なのに言うことを聞いてくれないのが許せなかった。泣きたいくらい悔しかった。


「未来、愛してる……おまえはオレだけのものだ……誰にも渡さない」


 わたしの右手に握られている携帯電話が震えた。
 それを痛いほど握りしめると、そこに少しだけ意識が集中できた。


「もっと足を開きなさい。言うとおりにすれば優しくしてやる……そうだ、いい子だ」


 太腿に力を込めてぎゅっと閉じていたわたしの足に義父の手が伸び、ゆっくり開脚させられた。
 その間を割り入るように義父の身体が入り込んでくる。閉脚することができなくなり、逃げ場を失った気持ちになった。
 たくし上げられたスカートの裾はすでに腹部を露わにしていた。そこをやわやわと撫でられ、その手がショーツの中に忍び込む。


「っ! ――っ!」


 気持ち悪くて首を振って拒絶するけど、その手の動きは止まらない。
 くち、くちとごつい指がそこを暴くように嬲り続ける。痛いくらいの刺激に涙が溢れ出した。


“いやっ! いやっ!”


 覚悟を決めたはずなのに、嫌悪感が全身を襲う。
 これ以上触られるのは耐えられなかった。吐き気を覚えた。目の前の義父のこと、そして呼吸をすることすらも厭悪する。このまま命が絶えたほうがいい。だけど――

 助けてほしい、一瞬そうも願ってしまった。

 その思いが一度浮かび上がると、もうそれしか考えられなかった。必死で四肢をバタつかせて抵抗した。だけどあっという間に両手首が義父の手によってシーツに縫いつけられるように拘束されてしまう。


「痛い目に遭いたいのか」


 低い潜めた声で脅され、身体が硬直した。
 「暴れるなら縛る」と耳元で吐息と共に囁かれ、さらに動けなくなってしまう。まるでセメントで固められたように動かない。かろうじて震えることだけはできた。まるでライオンに食べられる前の小動物のようだ。

 右手の中の携帯が、止まっては震えを繰り返す。
 壊れてしまうんじゃないかと思うくらい強く握りしめた。


 ――未来、ひとりでお父さんに会いに行ったりしてはいけないよ――

 
 お兄ちゃんの優しい声と笑顔が脳裏に浮かぶ。
 震え続ける携帯が、お兄ちゃんの声のように思えてさらに涙が溢れ出した。


 ――お兄ちゃん。約束を守らない妹で、ごめんなさい。


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Date:2013/08/19
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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