第52話 本当の兄は?柊視点
家に帰ったら、未来の母親から手紙が届いていた。
宛名は俺になっていて、やけに厚みのある少し大きめのサイズの封筒だった。中からはさらに白い手紙サイズの封筒が出てきた。そこにも『佐藤 柊様』と達筆な文字が書かれている。
『前略
初夏を思わせる陽気になりました。
本当にお世話になっております。未来は元気ですか? ご迷惑をお掛けしていないでしょうか?
わがままを言うような子ではないのですが、ただただ心配です。
佐藤さんが未来を預かりたいと仰った時、ひとつの疑問が浮かびました。
なぜ、こんなに未来によくしてくださるのか。
あの日詳しい理由を聞くことができませんでしたが、気になっていました。
そして、ひとつの可能性にたどり着いたのです。一度そうだと思ったらそうとしか思えなくなりました。
もしかしてあなたは、未来の本当の父親の息子さんではないか、と。
未来の本当の父親は私と結婚する前に家庭を持っていました。
前妻との間にあなたくらいの息子さんがいたのです。
未来も小さい頃、何度か会って遊んでもらったことがあります。
私の実家の方に未来の本当の父親の写真が数枚残っていました。
その中に息子さんが写っているものがありましたので、同封いたします。
その男の子があなたであるのなら、私と未来は感謝してもしきれません。
失礼かとは思いましたが、お金を同封させていただきます。
未来は特待生ですので学費はかかりませんが、生活費等様々なお金がかかると思います。
直接お渡しするのが礼儀でしょうが、申し訳ございません。お納めください。
実家から戻りましたら、今の主人とは別れようと思っています。
季節の変わりめ、お身体には十分お気をつけください。
敬具』
季節の挨拶まできちんと紡がれたその手紙を読んで、手が震えていた。
この手紙は俺に衝撃しか与えなかった。
未来は聖稜の特待生だった。
あの学校は義父が多大な寄付をしており、理事長と従兄弟関係で校長とも昵懇の仲だと聞いている。だから義父は教員志望の俺をあの学校の教師に推薦した。
初めはそうなってもいいかと思っていて、聖稜高校のことを色々聞いていた。だけど就職先ぐらい自分で決めたいと思い、その気持ちを義父に伝えて了承してもらえた。だからあの学校のことはわかっている。
毎年、首席合格の生徒一名が特待生制度を受けられる。
今年は悠聖が首席合格だったが、義父がその制度を辞退させたと聞いていた。だから特待生の資格が二番合格の生徒に譲られているはず。それが未来だったということだ。
悠聖ができるのはわかっていたが、未来も本当に優秀な子なんだと感心した。
あんな苛酷な環境でも、自分がやるべきことはきちんとやってきていたのだろう。強い子だと思った。
そして、未来の父親のこと――
未来の母親も、俺が彼女の本当の父親の息子だと思っている。これを撤回しないといけない。その思いが俺を焦らせていた。
――写真。
封筒を逆さまにして、中身を全部出す。
重みのある封筒が先に出てきて、一枚の写真がピラッと落ちた。
見たことのない若い男性の右と左に、男の子と女の子が一緒に写っている。
男の子は小学校の低学年くらいに見える活発そうな子。女の子は小さい。まだ幼児であろう。人形みたいにかわいい。この女の子が未来だろう。
この活発そうな男の子が、未来の本当の父親の息子。そして真ん中が未来の実父。
俺と思われている少年。見ても俺には全く似ても似つかない。何気なく写真を裏返してみる。
「……あ」
そこには衝撃の事実が残されていた。
【しゅう十歳 みらい三歳】
そう、写真の裏に小さく書き記してあった。
しゅう、と書かれたこの少年は偶然にも俺と同じ名前だったのか。だから未来のお母さんもそう信じたのか?
もう一度写真をじっくり見る。
この男の子、しゅう……十歳。
「ま……さか」
動悸じゃないかと思うほど速く脈打っている。脈動を煩く感じるくらいに俺は動揺していた。
同じ『しゅう』でもいろいろな名前があるじゃないか。
例えば、しゅうや。
この前の飲みの時、修哉が言っていた言葉を思い出す。
――オレにもいるんだよ。実は、異母兄妹がさ――
父親が死んでからは音信不通だと話していた。
この少年の顔、気の強そうな少しつった目に小ぶりの鼻、薄い唇に細めの体幹。
修哉の面影があるじゃないか。そう思ったらこの少年が修哉にしか見えなくなっていた。
「未来の兄は……修哉?」
気がついたら時間は十八時五十分を過ぎていた。
十九時に図書館前で待ち合わせなのに、これじゃ絶対に遅刻だ。
修哉にも確認しないといけない。
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