空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第13夜

 
 そのままこの人の自宅まで連れてこられた。


 雨宮翔吾の家の最寄り駅のデパートで下着を買わされましたよ。
 なぜか会計は向こうが持ってくれましたが? 意味わからないし。


 駅の近くの高層マンション、ここでひとり暮らしをしていると言った。


 玄関を入ると、短い廊下があって左側に部屋の扉、右側にお手洗いと浴室の扉がある。
 つきあたりにリビングと寝室、なのかな? あの扉は。
 少し大きめのテレビの前にはローテーブルとソファがどんと置いてある。


 ……なんでわたし、大人しくついてきちゃったんだろう?


 あんな寂しげな目で『俺から逃げないで』なんて言われてほだされちゃったの?
 ううん、それだけじゃないはず。
 逃げるチャンスもくれたのにわたしは逃げなかった……。

 正直、気になるの。この人のこと。
 わたしなんかが身の程をわきまえずって思うけど、止められない。
 

「よかった。すれ違わなくて。明日仕事休みだから今日は絶対に俺の家に連れてこようと思ってたんだ」

「へえっ?」

「今夜はゆっくりできるだろ? 明日洋服買いに行こうか? 映画でも見に行く?」

「いや……あの……わたし、泊まるとは言ってないですし……」

「雪乃がひとり暮らしなのはリサーチ済み。待っている人もいないでしょ?」


 喉元でぐっと音がして息が詰まるかと思った。

 なんでなんで! どうしてバレてるのよ!
 誰がこの人にわたしの情報を流しているの?
 

 促されるままお風呂に入らされ、この人の大きなパジャマを着るよう命じられた。
 着たら着たで大きすぎて笑われるし。袖を折ってくれながら『かわいい』だなんて抱きしめられるし!
 

「あのう……翔吾さんって、目悪いですか?」

「目? 両方とも裸眼で遠くも近くも見えるけど? なんで?」


 裸眼? コンタクトもしていないんだー。
 じゃ、目はいいんだ……余計に納得できない。


「いやあ……わたしなんぞをかわいいなんて言うから……よほど見え方がよくない目なのかなあと」

「失礼な。視力は昔からいいぞ」


 そうじゃない! そこ怒るところ?
 目の前でわたしの着ているパジャマの袖を折りつつじっと見つめられているのがわかる。
 もう……見ないでほしい。


「“なんぞ”はやめなさい“なんか”も禁止。俺の前で自分を卑下する言葉使ったら……」

「あぃたっ!」

「一回につき一デコピン、な」


 ビシリッといい音を立ててわたしの額にデコピンが炸裂した。

 額がっ! 頭蓋骨にヒビが入ったんじゃないかって思うくらいの衝撃があっ!
 あまりの痛みに額を押さえながらその場にうずくまるしかできなかった。
 

「いたいっ! いたいっ! いたいよぅっ……」

「同じ思いをしたくなかったら二度と口にしない、女だろうがそれが彼女だろうが容赦しないのが俺だから。覚えておいて」


 ひりひりする額を擦りながら痛みを逃そうとするけど全然和らがない。
 知らなかった……デコピンって単位だったんだ……。

 それが彼女だろうか……。



 本気……なの?

 





 
 
 月明かりだけの寝室、大きいベッド。
 わたしは今、その上に寝かされて組み敷かれている。

 こんなことになるなんて思ってもみなかった。

 ううん、今日ここに来た時点で……本当はそうなるって思っていた。
 わかっていたのについて来てしまった。もう、引き返せない。





「……んぁっ……んっ……ぁ」


 自然に口からいやらしい声が出てしまう。
 こんな声出したくないのに……でもどうにもならなかった。


 雨宮翔吾の手がわたしの胸の先端を抓んでやわやわと揉みしだく。
 もう片方の胸の先は唇で食まれ、舌先で突かれる。
 片手はすでにわたしの下半身を捕らえていて、わずかな水音が聞こえてきた。
 恥ずかしい……なんて淫靡な音なんだろう。

 身体の中がぎゅうっと熱くなっていく。
 これ以上触られると……何かがはじけるような感じがする。
 全神経が駆り立てられ、じわりじわりと内側にせめられる感覚が一点に集中していく。

 
 雨宮翔吾が触れる部分から全身へと刺激が伝わって頭が真っ白に……なるっ!


「ぁあんっ! だめっだめっ……やめっ……んんーっ」


 急に身体が痙攣したようにベッドの上で跳ね上がった。
 全身がわけもわからない疲労感に包まれ、力が抜ける。



「雪乃……イッた?」

「はあ……ああ……あ……」


 意味がわからなくて息切れを押さえながら目を閉じると、唇に柔らかいものが押し当てられた。

 またキスされた……なんでこんなに何回も……。
 唇が解放されたと思ったら、首筋をすうっと舐められて全身がぶるりと震えてしまう。

 その舌が心地よいようなむずがゆいような微妙な感覚としてわたしの頭に伝わった瞬間、鎖骨の辺りをがぶりと噛みつかれた。


「――っぅ!」


 痛みに驚き覗き込むと、雨宮翔吾が勝ち誇ったような表情でわたしを見つめていた。
 なんで噛むの? ひどいって言おうとした時――

 雨宮翔吾の形のいい唇がわたしの足の間に向けられた。


「あ――! ちょ……! やあ!」


 そんなところに口つけないでっ!

 そう思ったのに、時すでに遅く、柔らかい舌が濡れたわたしの下半身の中心に再び刺激を与えた。
 背中の産毛がさあっと逆立つような衝撃が起きて、わたしの身体の全神経が何かにかき立てられるようになる。


「やめ……そんなとこっ……」

 
 身をよじって抵抗するも太腿をがっしり押さえつけられてどうにもならない。
 足の間に雨宮翔吾の顔があるから派手に動けない……でも……でも……っ。
 身体中が何かに支配されていく。息が苦しくて、身体中の毛穴が縮まっていくような……。

 意識が高いところへ持っていかれる感じがして、頭の中で光のようなものがスパークした。
 

「っくっ! ああっ! ゃあ――――っ!!」


 再び身体が跳ね上がる。
 もう……だめ……。
 身体中が熱い……気だるい……もう休ませてほしい。



 うっすら瞼を開くと、視界に入った窓から丸い月が見えた。

 カーテンを引いてないからか電気のついていない室内なのにとっても明るく感じてしまう。
 わたしの貧相な裸体が浮き彫りにされているような気がして隠したかったけど、もう動けなかった。


 満月が、見てる。


 まるでわたし達の情事を……凛とした夜の闇の空気と共に。
 まるで月夜に抱かれているみたい……変なの。

 瞼を閉じると、自分の身体に重みを感じた。
 再びこの人の身体がわたしの上にそっと圧し掛かってきていた。
 

「力、抜いて。ゆっくり挿れるから」


 雨宮翔吾の低いバリトンが遠くで聞こえる。
 まるでフィルター越しの声……。

 力を抜く? そもそももう身体に力なんて入らない。もうぐったりしてしまって……眠ってしまいたいのに。

 わたしの思いなんてお構いなしで、両脚を抱え込まれ……。


「――――った! やらあ!」


 いきなり押し広げられるような痛みを下半身に感じ、わたしは絶叫した。
 目の前の雨宮翔吾の胸を押しやり、足をバタつかせて必死の抵抗を試みる。
 痛い! 痛い! こんなの無理だっ! 人一倍痛がりなんだってばっ!


「雪乃、力抜いて」

「いたいいたい! いやだあ! やめっ! いやー!」


 ギチ、ギチと軋むような音と感覚がわたしの足の間を襲う。
 必死で逃げようともがくけど、雨宮翔吾の力と身体がわたしの身体をしっかり固定して逃げられない。
 首を左右に振るしか抵抗できなくて、頭がくらくらして涙が吹き飛んだ。


「ああーん! いやだあ! 痛いよぅ! いやだあ! やだーっ!」

「落ち着いて。目を開けて」

「ふぇっ……ふぇ……」


 わたしの頬を優しく包む雨宮翔吾の手。
 瞼を開くと少しだけ辛そうな表情がわたしの顔を覗き込んでいる。
 唇がすぐに触れてしまいそうな位置に……顔がある。ううん、すでに少し触れているかもしれない。


「雪乃、俺を信じて。大丈夫だから……ゆっくり深呼吸して力を抜いて」

「……」

「――――雪乃」


 優しく呼ばれた刹那、唇が塞がれた。
 唇の間から舌が滑り込んできて、探るように歯の隙間をぬってさらに奥に侵入していく。
 喉元からくぐもったような声が自然に出てしまう。

 なんだかそれがとっても気持ちよくて……。自然に身体の力がふっと抜けた。

 少しずつわたしの中が広げられていく。
 それはやっぱり痛くて。その痛みの刺激が熱のように感じられた。
 ギリギリと軋むような感覚が少しずつ広がってゆく。
 声を出そうとすると、雨宮翔吾の唇がわたしの唇を塞ぐ。痛みを逃すように優しく何度も唇を重ねられた。
 
 そっと身体を撫ぜられ、そのくすぐったさに震えてしまう。
 優しく背に手を回され、苦しいくらいの抱擁にわたしの口から吐息が漏れた。

 痛いけど、その他の触れられている部分が心地いい。


 わたしの中で雨宮翔吾が静かに動く。
 痛みを問いながらの優しい動きにわたしの身体が揺すぶられる。
 少しずつ身体が慣らされていく。
 身体の奥が疼く……浮かび上がるみたいになっていく……。


「ゆ……きのっ……好きだっ……俺のっ……」


 悩ましげに途切れる雨宮翔吾の低いバリトンがわたしの脳に直接語りかけているような気がした。
 官能的な吐息がわたしの頬をかすめる。


「しょう……ごさっ」


 ぎゅうっとあるだけの力で雨宮翔吾の背中にしがみつく。
 筋肉のついた広い背中、熱い身体。そして硬い胸。
 この人の身体の温もりがわたしの全てを包み込む。

 怖い、この情動に流されるのが……でも、この人がいる――

 ひとりじゃ、ない。胸が苦しい、心も身体も焼けるようだ。


「――――す、き」


 無意識にその言葉を発していたことに、わたしはその時気がつかなかった。



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Date:2013/02/06
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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