空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 47

第47話 川の字で寝る三人

柊視点




 未来が俺の妹じゃなかったってことにショックを隠しきれなかった。
 だからと言って未来にあたっていいわけはない。悠聖の言う通りだ。情けない。

 一度妹と認識したものをまたかえるのは難しい。
 いや、かえる必要はない。このまま妹だと思い込んでしまえば済むだけの話。

 だから悠聖を泊めることにした。
 悠聖がいればちゃんと未来を妹と再認識することができるはずだ。認識というよりはインプットと言ったほうがいいのだろうか。

 未来は悠聖の彼女なんだから。そんな姑息な真似をしないと妹だと確実に思い込める自信がない自分が怖かった。



 和室に布団を敷いていると、いつの間にか未来が傍に立っていた。
 あまりにも突然静かに立っているから驚いてしまう。俺の言いつけ通り、パジャマを着替えていた。ピンク色のスウェット。やっぱりそっちの方がしっくりしているし、何よりかわいい。

 未来が携帯電話の画面を俺に見せた。


『悠聖くんが泊まるならみんなで寝ようよ。川の字になって。やってみたかったんだ』


 ビックリして未来の顔を見るとニコニコしていた。
 俺にあんなふうにあたられて怒鳴られたのに、全く気にしていない様子で。罪悪感で目を合わせることができなかった。

 未来には川の字で寝た記憶が薄いのかもしれないな。叶えてやりたい気持ちはある、だけど――


「ダメだよ、未来」


 端的にそう伝えると、未来が悲しそうな顔をした。そんなことできるわけがない。
 布団にシーツをかけていると、再び未来が携帯を俺に向けた。


『お兄ちゃんが真ん中ならいいでしょ? 悠聖くんはお兄ちゃんの弟でわたしは妹だし』

「いいんじゃない? 僕は未来の隣がいいけど、兄貴の隣で我慢するよ」


 小さい声でつぶやきながら、隣で悠聖が布団を敷き始めた。
 未来を見ると、味方ができたと言わんばかりにはしゃぎ出す。そんな未来を見て、悠聖もうれしそうに笑う。

 いつの間に悠聖は未来を呼び捨てにするようになったんだろう。
 それがとても自然で少し苦しくなった。



**



 和室に三つ布団を敷いて、俺が真ん中、左の壁側に悠聖、廊下に繋がるふすま側に未来が横になった。
 俺は仰向けになって小さい電球を見つめている。左を見ると悠聖も仰向けに寝ていて、右を向くと未来は俺の方を向いて目を閉じていた。
 
 未来はきっとひとりで眠りたくなくて三人で寝ようと提案したんだろう。

 修哉にはたまにと言ったが、未来は家に来てからほぼ毎日俺のベッドで一緒に眠っている。
 ひとりで眠りにつくのが怖いんだろう。だから俺は未来を受け入れる。修哉が来た翌日の夜、自分の部屋に寂しそうに向かうのを引き止めて自分の部屋に導いた。あの時の未来のうれしそうな表情は忘れられない。


「兄貴、未来は寝た?」

「……たぶん」

「そっか。兄貴とこうやって寝るのもひさしぶりだよね。なんだか懐かしい」

「……そうだな」


 しばらく経つと、悠聖の小さい寝息が聞こえてきた。



 本当の兄妹だったらよかったのに。
 未来が本当に俺の実父の娘だったら、あんなに酷い目に遭わせたりしないはず。未来にとってはそのほうが幸せだったのかもしれない。未来だって俺を実の兄と疑っていないはず。

 ……待てよ。

 未来は俺の父親、つまり養父(未来の中では義父)をどう認識しているのだろうか。
 未来の中での実父のカテゴリーがどうなっているのか、さっぱりわからない。俺の実父を本当の父だと思っているのか、それとも義父と思っているのか、養父とわかっているのか。


 俺の実父を本当の父親だと思い込んでいるから、俺の存在を兄と受け入れたのだろうか。
 自分の義理の父(正確には育ての父だから養父)の息子であるこの俺を。


 それとも未来は俺のことを本当の父親の息子だと思い込んでいるのか。
 つまりあの最低実父の子どもではない、自分の本当の父親の子ども。それなら俺を兄と受け入れられる気持ちもわかる。


 それを未来にちゃんと聞くべきなんだろうけど、怖くて聞けない。
 今までの関係を壊すことになる。俺は本当の兄じゃないのだから、簡単にこの関係が崩れることになってしまう。そうしたら未来がここにいる理由を失って、俺の元から去って行く可能性も考えられる。

 行き場を失った未来は、必然的にあの実父の待つ家に戻るしかなくなる。そうしたら――

 ダメだ、それだけはできない。



 ゆっくり未来の方へ身体を向けた。
 穏やかな表情で眠っている未来を見て、悲しい気持ちになってしまう。なんで俺はあんな父親の息子なんだろうか。申し訳なくて、詫びようがない。
 未来の右頬に手を伸ばして起こさないようにそっと触れると、暖かい温もりが伝わってきた。


 どうしたらこの子を幸せにしてやれるのか。
 一刻も早くあの実父から解放してやりたい。今はその思いしかなかった。


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Date:2013/08/16
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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