空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 43

第43話 父親との接触

柊視点




 悠聖に本当のことをすべて話した。

 かなり辛そうだったが、話す俺も辛かった。でも一度にすべてを知った悠聖はきっとパニック寸前だろう。このリビングを出た頃には、かなり憔悴しているように見えた。


 このことは誰にも話さないよう口止めをした。
 律儀な弟で、口も堅いはずだ。他の人に伝わることはないだろう。

 未来と悠聖がつき合っていることに関しては正直驚いた。
 未来が『ボーイフレンド』と言い切った男が悠聖。
 好きという気持ちがよくわからなかった未来。でも今は、心から悠聖を必要としているようだ。


 悠聖が帰る時、未来の部屋の扉越しでキスをしているのが見えた。
 俺のいた場所からは未来の顔しか見えなかったけど、とっても幸せそうだった。本当に悠聖のことが好きだと思ったからしたのだろう。あの子は俺の言うことを守った。それだけだ。

 胸の奥で何かが疼いたような気がした。
 だけど、未来が幸せならそれでいい。



**



 リビングのソファでぼんやりしていたら、後ろから肩を叩かれた。
 未来が制服姿のまま立っている。

 疲れを感じて無理に笑って見せると、未来もそんな感じで笑い返してきた。
 風呂が沸いていることをわざわざ伝えに来たようだ。先に入るよう促すと、目を真っ赤にした未来は素直にうなずいた。
 携帯電話をソファの前のテーブルに置いて浴室に向かうその背中が見えなくなっても、俺はしばらくリビングの扉の向こうを見ていた。


 未来が風呂に入っているうちに夕食の支度でもしようと思って立ち上がった時、その携帯電話がテーブルの上で音を立てて震えた。
 すでに時間は二十二時半近い。こんな遅くに誰だろうか。やたら音が響くなと思って覗き込むと、画面に『父』と表示されていた。
 
 その表示に背筋がゾクリとする。

 未来の『父』ということは俺の実父からのメールのはずだ。
 その携帯電話を手にして浴室の方をチラリと見る。今、未来は風呂に入っている。この音には気づいていないはずだ。


 人の携帯のメールを見るなんてよくない。
 しかし今は、れを抑えることができなかった。震えそうになるのを押さえて受信メールを開く。


  『一週間以内に帰って来なさい。戻らない場合はおまえの写真をバラ撒く』


 ……写真?
 脅しの内容に使われるくらいだから、普通の写真ではないはずだ。一体何の写真だと言うのだろう。
 こんな小賢しい真似をしてまで、未来を手元に置いておきたいのか。実父ながら呆れる。こんな小さい男ではなかったはずなのに、悲しいというより情けなさがこみ上げてきた。

 彼女の携帯電話を操作し、実父から受信したメールを削除した。

 未来、ごめん。

 その携帯から実父のアドレスと電話番号を開いて自分の携帯に登録し、その携帯を何事もなかったようにテーブルの上に戻す。


 これ以上、未来に手を出させない。
 俺が守ると決めたんだ。あの子をこれ以上苦しめるというのであれば、実父であろうと容赦はしない。





 自分の寝室に入り、電気もつけずに真っ暗なままで、今登録した番号に電話をかけた。
 
 呼び出し音が続く。
 胸の辺りがザワザワしてきた。未来が風呂からあがる前に話をつけないといけない。焦りでいらつく中、プッという音と共に声が聞こえてきた。


『――もしもし?』


 誰だ? といった感じの態度が声のトーンから聞き取れた。
 聞き覚えのある懐かしい声だった。


「……小林さん、ですよね?」


 自分の声が震えていないか不安だった。
 『はい』と、肯定の返事が聞こえ、俺は何を言ったらいいのかわからなかった。ついかけてしまったが、正直頭が混乱する。心の準備は全くできていなかったのだ。

 小さく深呼吸をして自分を落ちつかせる。


『どちら様?』

「……柊です」


 俺が名前を言うと、しばらく間があいた。


『……は?』


 気がついていない様子。
 父親と俺が別れたのが五歳の時で、変声期を知らないから俺の声に気づかなくて当然だろう。


『どちらの……シュウさん?』

「あなたの息子の柊です」

『――柊? 本物か?』


 父の震えた声が聞こえてくる。


『元気だったか?』


 いきなり父親らしいことを聞いてきて、拍子抜けしてしまった。
 でも未来にしてきた酷い仕打ちは事実だ。俺はこの目で見ているんだから。


『柊、どこでこの番号を知った? 今、何をしているんだ?』

「未来を苦しめないでくれないか?」


 向こうからの質問に答える余裕はなかった。
 声を絞り出して一番願う思いを伝えると、そのまましばらく無言の時間が続いた。


『……おまえ、未来を知っているのか?』


 父の狼狽したような声が聞こえて来るまでたぶんゆうに一分以上は待ったと思う。
 さすがに俺と未来の関係は簡単には繋がらないだろう。小さな声で「知ってる」と肯定すると、父の喉元で詰まったような唸り声が吐き出された。


『なんで……?』

「話すから、近いうちに会えないか?」


 また父の反応が途切れる。


『わかった。会おう』


 かなり長考していたが、決意を固めたようだ。
 会う約束を取り付ける前に、伝えておかなければならないことがある。


「俺と会うまで未来に連絡をしないでほしい」

『なんでおまえがそのことを知ってるんだ? それを教えろ』

「約束してくれ。必要なら俺が聞く」


 父親の言葉を遮るように話を進めてるけど、向こうは納得いかないようだ。
 それはそうだろう。自分は何も知らない状況なのに、こっちだけ知ってる状況だから相当もどかしいだろう。しかも微妙に話をはぐらかしている。だけど簡単に本当のことを教えるわけにはいかない。


『待て、未来はおまえのところにいるのか?』

「――ああ、俺のところにいる」

『返せ! 返すんだ!』


 すごい怒声が聞こえてきた。半狂乱かと思うくらいだ。
 そんなに未来を思うなら、なぜ虐待するのか問い詰めたいくらいだった。だけど今、その時間はない。こうして父と話していることが未来にバレてしまっては元も子もない。


「その前に一度会ってくれ」

『会ったら返すのか?』


 父親の言葉に俺は大きくため息をついた。
 返すって、未来はモノじゃない。まるで大事な玩具を取り上げられたような父の態度に閉口したくなる。


 「俺と話してからだ」とキッパリ伝えると、父はしぶしぶ納得した。
 後日連絡で会う日程を決めることになった。

 それまで未来とは接触しないよう、もちろんメールも電話もするなと約束させた。
 約束を破って接触を試みたら、未来は家に戻さないと逆に脅しをかけた。


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Date:2013/08/14
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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