空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 42

第42話 動揺する僕

悠聖視点




 家に着いたのは二十二時過ぎだった。

 帰りの遅い僕を母が酷く心配をしていたが、何も言わず部屋に入って来てしまった。
 今は顔を見たくなかった。言葉を交わすのも億劫に感じたんだ。


 部屋に入ってブレザーを床に脱ぎ捨てて、そのままベッドに横たわる。
 仰向けになって目を閉じ、手の甲で目を覆う。少し頭の中を整理したかった。



 兄貴と僕は本当の兄弟じゃない。
 父親が違う。それを知らなかったのは、僕だけ。

 兄貴には実父がいて、それが弓月の父親。

 その父親が弓月に対してしていたのが、性的虐待。


 兄貴と弓月が異母兄妹。
 僕と兄貴は異父兄弟。頭がおかしくなりそうだ。


 兄貴はこの件に関して、弓月に触れないでほしいと言った。
 それはそうだ。辛い思いをわざわざ蒸し返す必要はない。もちろん言われるまでもなく、弓月にむやみに聞いたり無駄な確認をするつもりはない。


 虐待される弓月を想像したら気が狂いそうになる。兄貴の実父が憎くてしょうがない。
 声の出ない弓月を追い詰めて……なんでそんなことをするんだ。実の父親にそんなことをされるなんて信じられない。信じたくなかった。彼女が不幸すぎる。

 もしかして、弓月が話せなくなったのはそのショックからなのだろうか。
 だけどそれを確認することはできない。もしそうなら本当に殺してやりたいくらいだけど、そうしたとしても弓月の声は戻ってこないだろう。
 


 弓月を助けたい。守りたい。
 僕の胸で小さく震えて泣く彼女が本当に愛おしい。

 これ以上、弓月に悲しい思いも苦しい思いもさせたくない。
 十五歳の僕たちにできることはなんだろう。僕が彼女にしてあげられることはあるのだろうか。
 



 ひとつ兄貴に聞き忘れたことを今頃思い出した。

 車の中のキスシーン。
 聞きそびれたって言うのもある。今更聞きづらいし、聞くのが怖い。何かの間違いであってほしい。

 兄貴は、僕が弓月を思う気持ちとは少し違うけど、彼女のことを大事に思っていると言っていた。
 それは異母兄妹としてと捉えて間違いないだろう。兄貴が嘘をつくとは考えられない。今までにだってそんなことは一度もなかった。

 妹にキスをしたりしないだろう。
 だけど、あのシーンを見せられたら……どうしても真実を確認しないとこのモヤモヤは消えない。

 

 橋本先輩のあの動画がなかったら、こんなことを知ることもなかった。
 あの動画に映っていた走り去る車のナンバーが兄貴の車のものだってわかったから、こうして弓月の過去も僕と兄貴の関係も知ることができた。

 どうなんだろうか。知ってよかったのか、知らない方がよかったのか。
 弓月の過去を受け止める覚悟はできている。だけど、両親のことや兄貴のこと――

 今の僕には判断できない。なんだかすごく疲れたんだ。


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Date:2013/08/13
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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