空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 38

第38話 彼女のキスシーン?

悠聖視点




 休み時間、教室で本を読んでいる彼女を見ているだけでドキドキする。

 あのピンク色の唇に自分の唇を重ねてしまったと思ったらなぜだか申し訳ない気持ちにすらなった。
 恋人同士で同意の上のキスなのに、まるで弓月を穢してしまったような気にさえなるのだ。


「悠聖、これ廊下で預かった」


 健吾が折った小さいメモ用紙みたいなのを僕に渡してきた。


「なにこれ?」

「知らね。男の先輩から。どうせ声かけられるなら女の先輩がよかったな。おまえ男の先輩にもモテるのか?」


 そう揶揄する健吾の腰の辺りを叩いてやると、薄ら笑いを浮かべて逃げていった。
 男からメモをもらったのなんてこれが初だ。しかも先輩? 小さいメモを広げて見てみる。


 『今日の放課後、ひとりで図書室に来い』


 たったそれだけしか書かれていない。しかも差出人の名前もない。

 だけど図書室を指定する男の先輩ときたら、橋本先輩しかいないだろう。
 弓月を呼び出すならわかるが、僕に何の用があるというのだろうか。



**



 放課後。
 帰り支度をしている弓月の傍に近寄ると、ちょっとだけ首を傾げて僕の顔を覗き込んだ。


「今日、掃除は手伝うけど、一緒には帰れない。人に呼ばれてて……ごめんね」


 橋本先輩にということは伏せておかないと気にさせてしまう。
 それに弓月にあの先輩との関わりを持たせたくない。


“待ってる”


 彼女の唇がそう動いた。
 うれしいし、弓月からそんなこと言われたの初めてでそうしてほしいけど、遅くなったら彼女がバイトに間に合わなくなるかもしれない。

 僕がそう伝えると、残念そうに肩を落とした。
 弓月は僕と一緒にいたいと思っていてくれてるの? それだけで本当にうれしかった。


 今日はみんな掃除当番をサボらずにやってくれた。
 弓月ひとりだとみんなサボるから、僕が見張っていればいいんだってわかった。
 その後、弓月はひとり寂しそうに帰って行った。教室の窓から彼女の後姿を見送る。本当は一緒に帰りたかった。ごめんね、と心の中で詫びた。





 図書室に静かに入ると、返却カウンターのところに橋本先輩が立っていた。
 他に生徒はいないようだ。本当にこの図書室はいつも空いている。使っている人なんてほとんどいないだろう。


「待ってたよ」


 得意げな顔で笑う橋本先輩を見て、げんなりしてしまう。
 この人に呼ばれなければ弓月と帰れたのに、と思ったら軽い苛立ちを覚えた。


「男の先輩に呼び出されるのはいい気がしませんね」

「オレだってかわいい女の後輩の方がよかったさ」


 ――ゴトン! と音を立てて橋本先輩が返却カウンターの上に何かを置いた。
 シルバーのコンパクトなデジカメだった。


「弓月を純粋に信じ続けるいたいけな少年に真実を教えてやろうと思って。それが証拠」


 片方の口角を上げてニヤリと笑う橋本先輩に悪意を感じる。
 いたいけと思ってもいないことを言われたのも、バカにされたようないやな気分だった。
 弓月を本気で好きで、つき合っている僕のことが憎らしいと思っているのならそれでもいい。だけど今の言い回しだと、橋本先輩は彼女を陥れようとしているとしか思えない。

 デジカメを指差して「見ろ」と指示された。
 なんとなく嫌な予感がする。橋本先輩のすることは全て胡散臭い。だけどここで見なかったらいつまでもこの場から去ることができないだろう。

 観念してしぶしぶデジカメを手に取り、再生を押した。


 映っているのはY図書館の入口の門の前、しかも夜。
 やっぱり橋本先輩は弓月を待ちぶせしていたのか。

 橋本先輩を睨みつけると、向こうはおちゃらけた様子でお手上げのポーズを取ってみせた。


「おぉ怖い。でももっと怒ることになるから、おとなしくそれを見てろ」


 橋本先輩の行動には腹が立ったが、今はこれに集中しよう。

 しばらく同じ場面が写されている。何の変化もない。
 そのまま見ていると、Y図書館の門の前に一台の黒塗りの車が停まった。この車、今人気のある車種だ。よく走ってるのを見かける、それに――


「前にリーマン風の男の話、しただろ?」


 いきなり橋本先輩がデジカメを覗き込んできた。これが、そのサラリーマン風の男の車なのか?
 画面がズームアップされて、車の真後ろからの撮影が始まった。

 これは盗撮だろう。そう尋ねようと思った時、弓月が車に近づいていく姿が映し出された。
 思わず声をあげそうになって口をつぐむ。画面に顔を近づけてじっくりその動画を見ていると、橋本先輩が小さく鼻で笑った。

 弓月が運転席に話しかけている? 話せないはずなのに。唇の動きを見せているのか?
 車の前から助手席にまわって彼女が乗り込んだ後、画面がさらにズームアップされる。少しぼやけた感じで車内が映し出され、すぐにピントが合った。


「――!?」


 車の中で運転席の男が、助手席の弓月に覆い被さるような体勢になったのを見て、目を疑った。
 これじゃ、まるでキスしているような……まさか!?

 横目で橋本先輩を見ると、ニヤニヤして大きくうなずいた。

 最後に車が去っていくところが映っていて――


「――――あ」


 僕はこの動画を観て、二度も絶句させられたのだった。


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Date:2013/08/11
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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