空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 37

第37話 添い寝はNG?

未来視点




 珍しく夜ひとりだったから、佐藤くんにメールして、電話までしちゃった。
 ゆっくり話してくれて、なにも説明していないのにわたしの言いたいことをちゃんとわかってくれた。


 『僕のこと好き?』って聞かれた時は、さすがにビックリしてドキドキした。
 でも電話でも話せるってわかってうれしかったな。


 電話を切った後、しばらくして佐藤くんからメールが届いた。


  『最後の五回はなんて言ったの?』


 やっぱりわからなかった。いきなり回数が増えたから、不思議に思ったんだろう。
 『あ・り・が・と・うの五回だよ』と、ちゃんと返信をしておいた。こっちからするべきだったのにね。

 だけど気にしてくれてたんだ。五回の意味。
 叩く数と言葉を決めておけば、簡単な会話ならできそう。少しずつできることが増えていく。それってすごくうれしいよ。


 いきなり携帯が震えて、見ると母からのメールだった。
 なんだかすごくひさしぶりな気がして、少しだけ緊張してしまう。


  『元気ですか? 最近なかなかメールができなくてごめんなさい。
   お父さん、今少し落ち着いています。
   あなたをお母さんの親戚の家に預けたと言ったのを信じています。
   お母さん、近々実家に一度戻ろうと思っているの。
   またすぐにこっちに戻ってくるけど、その時は未来も一緒に行きませんか?』


 義父は落ち着いてるんだ。よかった。

 きっと義父がわたしにする仕打ちはストレス発散なんだと思う。だから捌け口がいなくなったことで母に対して暴力を振るうようになったらどうしようか心配だった。でもその心配はないと思っていいんだよね。
 わたしを安心させるために嘘をついているわけじゃないと祈るしかない。母は忙しくて疲れているだろう。こうしてメールをくれたことがうれしかった。
 
 そしてこっちからまったく連絡を取っていなかったことを申し訳なく感じた。


  『忙しいのにメールをありがとう。わたしは元気。
   柊さんはすごく優しいよ。お母さんの実家のこと、考えておきます』


 短めのメールを送信してから、大きなため息を漏らしてしまった。
 柊さんがわたしの本当のお兄ちゃんだってことはしばらく黙っていようと思う。お兄ちゃんから話してもらった方がいいだろう。わたしからじゃうまく伝えられなそうだから。



 夜中の一時をまわってもお兄ちゃんは帰って来なかった。
 ひとりで眠れる気がしないけど、お兄ちゃんのベッドで寝そべっていれば眠れるかもしれない。
 自分の部屋の布団よりお兄ちゃんのベッドの方がよく眠れる。お兄ちゃんの匂いが心地よくて、安心するから。

 早く帰ってこないかな。思うことはそれだけだった。
 帰ってきてわたしがここにいることに気づくようにベッドライトを少し明るめにつけておいた。

 お兄ちゃんがいないと、寂しい。



* 



 微睡まどろみかけた頃、玄関が開く音がした。無事に帰ってきてくれてよかった。
 お出迎えに行こうとしたけど、目が開かずにウトウトとまた眠りの中に引きずりこまれてゆくようだった。このまま眠って待っていれば、そのうちお兄ちゃんもここで眠るだろう。

 寝室の扉が開く音がして、部屋に廊下の光が入ってくる。


「……おいっ! ここの部屋だよな?」


 ――ドサッ! という音と共に、ベッドの足元に重みを感じた。
 

 知らない人の声にビックリして跳ね起きると、図書館の前で一度会ったことのあるお兄ちゃんのお友達の修哉さんだった。彼も驚いた顔でわたしを見ている。


「えっと……柊の妹、確かみらいちゃんだよね?」


 修哉さんに名前を呼ばれ、うなずく。
 お兄ちゃんはベッドの上へうつ伏せ状態に横たわらされていた。頭はいつもお兄ちゃんが眠っている方向、足はわたしの寝ている方にある。なだれ込んだという表現が一番適しているだろう。

 肩を揺さぶると、お兄ちゃんが少し上半身を起こし上げた。


「未来? またこっちで……寝てたのか?」


 わっ! お酒くさい!
 わたしが顔をしかめると、お兄ちゃんの表情がトロンとなった。


「遅くなってごめんな……みら……い」


 お兄ちゃんはそのままうつ伏せ状態にベッドへ倒れこんだ。
 こんなにベロベロになるまで飲むなんて……冷蔵庫にビールがあるのは知ってるけど、実際に飲んでいるところは見たことがなかったからビックリした。

 修哉さんが寝室の入口に立ったまま、わたしとお兄ちゃんを見ている。
 ベッドから降りて、修哉さんに頭を下げた。一応お詫びのつもりだった。


「本当にしゃべれないの?」


 頭の上からひそめた声がした。
 修哉さんを見上げると、首をかしげてわたしを見ていた。信じられないといった表情なのがよくわかる。
 肯定の意味を込めてうなずき、携帯電話に文字を打ち込んでいると、修哉さんがそれを覗き込んできた。再度見上げると小さくうなずかれ、打ち込み終わるのを待ってくれているようだった。


『お兄ちゃんがご迷惑をお掛けしてすみませんでした。今、お茶を淹れますからリビングの方へどうぞ』


 修哉さんより先にお兄ちゃんの部屋を出る。
 リビングの電気をつけて、キッチンの電気もつけてお湯を沸かし始めた。
 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してキッチンを出ると、リビングの入口に修哉さんが立ってキョロキョロしていた。
 そっちに近寄って修哉さんの右手を軽く引くと、一瞬戸惑う様子が伺えた。手招きするのも変だし、いきなり触れるのもどうかと思ったけど、すぐに理解してついて来てくれた。

 リビングのソファの背もたれを叩いて示すと、そこに座ってくれた。
 人差し指と親指でOKマークを作って修哉さんに見せると、苦笑いされる。
 ペットボトルの水を掲げ、お兄ちゃんの部屋を指差すジェスチャーして見せると、修哉さんが察してくれてうんうんとうなずいてくれた。言葉がなくても結構伝わるものだ。



 部屋に入ると、お兄ちゃんはそのままの体勢で眠っていた。
 その右肩を揺さぶってみると、ゆっくり目が開く。わたしが見せたペットボトルの水を受け取り、小さく唸りながらかったるそうに上半身を起こした。その動作が緩慢でかなりだるそうに見える。


「あー飲み過ぎた」


 豪快にグビグビ水を飲み始めるお兄ちゃんを見て安心した。これだけ飲ませておけば大丈夫だろう。
 お兄ちゃんの右肩を叩いてリビングへ戻ると、丁度やかんのお湯がシュンシュンいって沸くところだった。グッドタイミング。

 お茶を用意しようと茶筒を手にした時、リビングの方からお兄ちゃんの声が聞こえてきた。


「修哉、悪い。飲み過ぎた」

「本当だよ。変な飲み方してたもんな」


 お兄ちゃん、起きたんだ。
 食器棚から湯飲みをふたつ出してお茶を淹れていると、また声が聞こえてきた。小さな声で話しているふうだけどよく聞こえる。わたしはすごく耳がいい。


「未来ちゃん、おまえと一緒に寝てるの?」

「……たまにな」

「やばいんじゃない? あんなかわいい子と同じベッドじゃ……」

「ばっ! 妹だ」


 慌てた様子のお兄ちゃんの声は大きくて、必死で修哉さんに弁解しているような感じに受け取れた。
 やっぱりお兄ちゃんと一緒に寝ちゃダメなのかな? 兄妹でもおかしのだろうか。


「しかもあの子の着てるパジャマおまえのだろ? やたら大きくてエロい」

「そういう目で見んな!」


 お兄ちゃんの大声にビックリして、手が滑りそうになってしまった。
 リビングの方からこっちに歩いてくる足音が聞こえてきて、妙にドキドキする。
 神妙な顔つきのお兄ちゃんがキッチンに入ってきて、着ていたジャケットをおもむろに脱ぎ、わたしの肩にかけた。ポンポンと頭をを優しく撫でられ、背中をそっと押される。


「こんな時間に悪かったな。前をしっかり押さえて部屋に戻りなさい。あとは俺がやるから」


 でも、と唇で伝えようとしたけど、お兄ちゃんの淀みない表情を見たら何も言えなくなった。
 リビングのソファに座っていた修哉さんに一礼して部屋へ向かう。時計を見るとすでに二時をまわっていた。


 一緒に眠っているのを咎められたような気がして少し寂しくなった。
 わたしがこのパジャマを着ていたから、お兄ちゃんのベッドで寝てたからいけなかったのかな。いやな思いさせちゃったのかな? 心配だよ。

 その日は自分の部屋で、なかなか眠りにつけなかった。


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Date:2013/08/11
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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