空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 36

第36話 秘密の共有

柊視点




 二十時、駅前の居酒屋で修哉と会った。
 個室タイプの座席があるので話しやすく、よく瑞穂を交えて三人で飲む店。店長ともすでに顔見知りで、よくしてもらっている。料理もうまいし、居心地もいい。


「はぁ? 妹ができた?」


 俺の話を聞くや否や、修哉が素っ頓狂な声を上げた。
 その後、中ジョッキの生ビールを一気に呷り、自分を落ち着かせている様子。それで落ち着くのか定かではないが、修哉はいつもそんな感じ。本人は「落ち着く」と言うのだからそうなのだろう。


「今の親父さんとおふくろさんに?」

「いや、違う。実の父親と再婚相手の間に子どもがいた」

「ふーん、異母兄妹ってやつか」


 うなずくと、修哉が前においてあるビールを促してきた。
 少しだけそれに口をつけて小さくため息をつく。ビールはひさしぶりだからかなりおいしく感じる。
 未来が来る前は毎日一本は飲んでたんだけど、家で生活させるようになってから飲んでいなかった。なぜか未来の前で飲みたいと思わなかったんだ。


「妹、いくつなの?」

「十五歳」

「七歳下か? え? 高校生?」


 枝豆を摘みながら、人差し指を一本立てて示した。
 高一の意味、これで充分だろう。俺と修哉はツーカーの仲だから。


「それってさ……おまえの……まぁいいや。それでその妹がどうしたの?」


 修哉が言いかけてやめ、続きを話せと促す。
 ビールをゴクゴク飲みながら、それが俺の話を聞く彼なりの体勢なのだ。


「一緒に暮らしてる」

「ぶ――――っ!!」


 飲んでいたビールを、修哉が豪快にふき出した。まるで噴水の如く。
 俺の顔にまでそれがかかって、テーブルの上もぐっしょりと濡れてしまった。


「おまっ! 何言って!?」


 修哉が口元のビールをおしぼりで拭き、テーブルも拭き出した。
 俺も自分の顔をおしぼりで拭く。顔面噴射は勘弁しろってーの。


「やむにやまれぬ事情があってさ……」

「何だ? 事情って?」

「まぁ、それに関しては後々話すけどさ……妹ってかわいいな」

「今まで男兄弟しかいなかったからじゃね?」


 ビール噴射がけ唐揚げを修哉が手で摘んで食べ始めた。
 続けてビール噴射(略)フライドポテトに手を伸ばしている。修哉は無類の揚げ物好きだが、身体は細っちい。


「まぁそれもあると思うけど……」

「気持ちわからないでもないがな」


 むぐむぐポテトをほおばりながら、修哉が何度も納得したようにうなずく。
 わからないでもない? 修哉のその言葉の意味を考える。


「おまえ、ひとりっ子だろ?」


 気になって聞き返すと、修哉が勝ち誇ったように笑う。
 何となく胸を張っているようにも見えた。


「オレにもいるんだよ。実は、異母兄妹がさ」

「え? マジでか? やっぱり前の親父さんの?」

「前も今もオレん家は母親再婚してないから、後にも先にも親父はひとりだ」


 修哉がフライドポテトを指揮者のタクトのように振りまわすと、そのままおいしそうにパクッと食べた。
 修哉は両親の離婚後、母親の方に引き取られた。父親の存在について、俺は詳しく聞かされていない。


「修哉はその妹に会ったことあるのか?」

「ああ。父親が一年に数回でいいからオレに会わせろっておふくろに頼んだらしくて、何回か親父と会っているんだよ。おふくろ抜きで。その時何回か親父が新しい奥さんとの間にできた娘を連れて来たんだ」

「へぇ……ある意味残酷じゃないか?」

「何が?」

「おまえに対してだよ、修哉」

「なんで?」

「だって会って別れる時、おまえだけ置いて父親はその娘と一緒に帰るんだろ?」

「いや、たまに親父の家でご馳走になったこともあったよ」


 ハハハと修哉が声を上げて笑った。
 こいつ、ほんとのほほんとしていると言うか。まあ、それが修哉のいいところだと思う。
 今度はまた唐揚げに手を出している。痩せの大食いって修哉のためにあるような言葉だと本当に思う。


「じゃ、親父さんの新しい奥さんとも?」

「うん。普通に会ったことある。二、三回かな? 妹には何回か会ったよ。親父がオレの妹だって言うからさ。よく遊んでやったよ。いくつになったのかな?」


 頬づえをついて、修哉がしみじみと言った。


「いくつだったの?」

「わかんね。昔も今もそうだけど、子どもの年齢なんて見ただけじゃわかんねーよ。もしかしたらもう大学生くらいになってるのかもな」

「大学生か……案外美人になってるかもよ?」

「『案外』は余計だろ。ひさしぶりに会いたいな」


 修哉が鼻で笑いながら少し黄昏るような表情を見せる。
 懐かしい思い出をよみがえらせてしまったようだ。よかったのか悪かったのか。


「もう随分会ってないの?」

「親父が死んでからは音信不通だな。結構かわいい子だったんだよなー」

「ロリコンか」

「馬鹿言うな。大学生なら立派な大人だろうが。おまえの妹はどうなんだよ? 柊」


 修哉に聞かれて未来を思い、ドキッとした。
 修哉には本当のことを言っておこうと思っていた。話すいいチャンスだ。


「おまえ見てるよ。俺の妹」








「はぁ、あの図書館の子か……えらいベッピンな妹ができたもんだ」

「瑞穂には内緒にしておいてくれ」


 微妙な顔で修哉がうなずく。しぶしぶ納得させた感じ。
 はぁっと大きいため息が向かいの席の俺まで届いた。
 惚れている瑞穂に隠しごとをさせるのは悪い気がしたけど、俺の兄弟として秘密を共有してくれ。修哉。



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Date:2013/08/10
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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