空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 32

第32話 頑張る彼氏

未来視点




 翌朝、八時十分。
 S駅の改札口に向かうと、佐藤くんの後姿が見えた。券売機の向かいにある丸い柱に寄りかかって本を読んでいて、後ろから近寄るわたしに全く気づいていない。


  『何の本を読んでいるの?』


 短文でメール送信すると、佐藤くんがブレザーから携帯電話を取り出した。
 佐藤くんが寄りかかっている柱の真後ろに近づくと、わたしの携帯電話が震えた。


  『内緒』


 ええっ? なにそれーっ。
 内緒にするような本? 気になるな。


  『教えてくれないんだ』


 真後ろにいるのに、まだ気づかない。
 ちょっと面白くなっちゃってこのまま続けてしまった。いつになったら気づくかな?
 

  『弓月はどこから僕を見ているの?』


 佐藤くんは全く周りを見ようとはしていない。
 探そうともしていない様子。でもそれも面白い。こみ上げてくる笑いを堪えてメールを送信する。


  『見つかるかな? やっぱり視野を広くしないとね』


 まさか同じ柱に寄りかかっているとは思わないでしょう。
 このままじゃずっと気づかれない気もするけど……。
 

「もうわかっているんだけど、いつになったら僕の前に現れるのかな?」


 佐藤くんが柱のこっち側を覗き込んだ。
 うわぁ、いつの間にバレてたんだろう? しかも気づかない振りしてるとかー。


「携帯のバイブレーター音、すごくよく聞こえた」


 佐藤くんが笑いを堪えている。うわ、耳もいいんだ。盲点だった。
 気がついていたなら早く言ってくれればいいのに。頬を膨らませて怒った振りをしてみせると、佐藤くんがまた楽しそうに笑った。


「ごめんね。気がつかれていないって思い込んでる弓月を見てたかった」


 持っていた本で自分の目許を示して、少しだけ誇らしげに笑う。
 ブックカバーのかかった本、内緒ってなんだろう。すごく気になる。


「眼鏡をかけていても視野は広い方だよ……あっ!」


 意外にもひょいっとその本を奪うことができてしまった。
 まさか取られると思っていなかったみたいで、佐藤くんが小さく驚きの声を上げる。その本を見て、いけないことをしたと後悔した。

 佐藤くんが読んでいたその本は『読唇術・読語』の本だったから。


“ごめんなさい”


 頭を深く下げてその本を返した。
 その体勢のまま携帯電話で文章を打つ。


「なんで謝るの?」

『佐藤くんが内緒って言ってたのに、無理やり見ちゃった。ごめんなさい』

「別にいいよ。弓月と話したくてやってることを本人に内緒にする必要もないし、結構弓月の唇読めるようになってきていると思うよ」

“そうだね。ありがとう”


 素直にお礼を言うと、佐藤くんがちょっとムッとした顔をしてそっぽを向いた。
 あれ? 怒っちゃった? お礼言ったつもりだったのに、伝わらなかったのかな?


「礼なんか言うな。彼女のために頑張るのは当然だろう?」


 照れくさそうに後ろ頭をかきながら、佐藤くんがわたしから目を逸らした。
 今、彼女って言われた。わたし、佐藤くんの彼女。


 佐藤くんは……わたしを、好き? 
 聞いてみたいけど、聞けないよ。



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Date:2013/08/08
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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