第26話 彼女からのメール悠聖視点
部屋でパソコンをいじっていたら、いつの間にか十九時になっていた。
弓月、バイト終わっただろうか。机の上に置いた携帯電話を手にとってメールボックスを見た。
彼女からのメールはまだ一度もない。
僕もまだ一度しか送信していない。昨日つき合いはじめたばかりだし、期待しすぎなのかもしれない。
でもこんな風にメールを待つだけは少し辛い。あまりメールをする子ではないのかもしれない。自分もそんなにまめな方ではないと思うけど、彼女から着たら返信は必ずするつもりでいる。
――昨日の夜、サラリーマン風の男とやけに親しげに――
橋本先輩の話が頭から離れない。弓月を信じてるよ、でも。
サラリーマン風の男が弓月にとってどんな存在なのかだけでも知りたい。そうじゃないとやきもきして何も集中できない。
「……ふう」
小さく深呼吸すると少しだけ楽になった気もするし、気のせいのような気もする。
続けて二、三回深呼吸してみた。その後、自分の両頬を結構強めに叩いてみた。パンパン! といい音がして、少しだけシャキッとした。
自分が思っている以上に僕は弓月に惹かれている。まるで溺れていみたいだ。
こんな気持ちは初めてで、どうしたらいいのか戸惑いしかない。自分から女の子に告白したのも、好きになったのも全てが初めてだ。
最初はただ『かわいい』と思っていただけだったのに。
涙を見てから、そして抱きつかれて『この子を守りたい』という気持ちに変わった。今では『僕のものにしたい』とさえ思っている。
告白したのはその時の衝動的な気持ちだったけど、OKしてくれてうれしかった。
携帯を見ると十九時五分。メールを送信しても迷惑じゃないだろうか。
このままじっとしているとサラリーマン風の男を確認しに図書館まで行ってしまいそうな自分がいる。今、行けば帰宅時間に間に合うかも? とか思っている。
だけどそこまでしてしまって弓月に引かれてしまうのはいやだ。
そんな自分はストーカーみたいな気もするし、いくら恋人とはいってもそこまでする権利ないだろう。
携帯電話を持ち直して、メール作成をし始める。
その時、僕のそれが震えた。
見るとメールの受信で、差出人は『弓月未来』と表示されていた。
はやる気持ちを押さえ、受信メールを確認しようとして指が震えてしまう。やっとの思いでそのメールを開くことができた。
『こんばんは。昨日はメールしてくれたのに返信できなくてごめんなさい。
今日は図書室の仕事を手伝ってくれてありがとう。
また明日ね。P.S:明日はマスクをしないで学校に行く予定です』
「……は、はは……」
メールを見て、声を出して笑ったのは初めてかもしれない。
お礼と挨拶のメールがこんなにもうれしいなんて思ってもみなかった。これも初めての経験。しかも昨日、僕がしたメールの返信をできなかったことも気にしてくれていたんだ。
僕は机に頬づえをついて何度もそのメールを読み返し、挙句の果てにそれに保護をかけて保存用フォルダを作成してしまった。
弓月からメールが来たからこれで気兼ねなく僕も送信することができる。
うれしくてはしゃぎたい気持ちを押さえつつ、メールを作成した。たぶん顔はにやけているはず。
『バイト終わった? お疲れ様。帰り気をつけて』
短いし素っ気ないけどこのくらいの方が弓月にとって負担にならないだろうと思い、送信。
即返信とかウザくないかな。心配だな。
――そうだ。
いきなりひとつの事実にたどり着いた。しかも自分の打ったメールで気づいたんだ。
昨日の夜、橋本先輩は図書館でサラリーマン風の男と弓月がやけに親しげだったと言った。この目で見た、とも。
橋本先輩は昨日の夜、弓月がバイトしている図書館にいたってことじゃないか。
何のために? まさか……待ちぶせ?
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