空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 17

第17話 危険な彼女

柊視点




 まさかこの図書館で生徒に見つかるとは思わなかった。
 あの時、金子にこの図書館の本を見られたのが敗因だ。余計なことを口外してしまったな。

 しかも彼女と一緒の時に。タイミングが悪かった。その後まさか瑞穂まで来るとは……今日は厄日だ。

 おまけに瑞穂には今日の飲み会の約束までさせられた。修哉と二十時にこの図書館前で待ち合わせとのことで、俺まで参加命令が下された。今はあんまり瑞穂と修哉の間に入りたくないのに。


 しかし……彼女と金子が小学校の同級生とは。
 瑞穂の言う通り、確かに年を感じるな。



 それよりもなによりも。
 彼女のあの“大好き”と言って笑った表情が頭から離れない。
 本が大好きっていう意味なのに……高一の女の子の言葉や表情にドキッとさせられるとは……俺もまだまだだな。



**


 少し早めの十九時五十分に再度図書館の前に来た。
 さすがにすっぽかすわけにもいかず、かといって一度家まで帰って出直すのもめんどくさいから時間まで学校でゆっくりと時間を潰したのだった。


「よう、柊」


 もう修哉は図書館の前に立っていた。ニッと笑って俺に軽く右手をあげる。
 仕事を終えて、一度家に帰ったのだろう。グレーのパーカーにジーンズ。ラフな格好だった。修哉は営業職だから常にスーツ着用を義務付けられている。


 図書館の入口に視線を送ると、誰かが出てきたのが見えた。

 館内の光が逆光になってよく見えないけど……制服姿? 彼女か。
 こっちに向かって図書館の庭を歩いてくる。こんな時間までバイトしているのか。


 図書館の庭の植え込みから急に人が出てくるのが見えた。
 その人が彼女に話しかけている様子。どう見ても男の姿だった。急に植え込みから出てきたせいか、彼女が一瞬身を引いたように見えた。


「どうした? 柊」

「あ……いや」


 俺が図書館の庭の彼女を見ていると、修哉もそっちを見た。
 「ん?」と低い声をあげて、目を凝らしている。


「ああ、あの子絡まれてるっぽいな」

「えっ!?」


 修哉の言葉にハッとした。彼女は話せないし、抵抗できないじゃないか。
 気がついたら俺は彼女に向かって全速力で走っていた。後ろから修哉が俺の名を呼ぶ声が聞こえたが、構っていられなかった。

 そのふたりに近づくと、目の前の制服の男に手を掴まれて怯える彼女の姿――


「やめなさい!」


 声を出して威嚇すると、男と彼女が俺を見た。


 泣き出しそうな表情の彼女の唇が、俺の名を呼んだように動くのがわかった。
 男の方はバツの悪そうな顔でこっちを見ている。この男の制服も聖稜のもの。知り合いか?


「いやがっているだろう。その手を離しなさい」


 その男はチッと舌打ちをして彼女の手を離した。
 彼女に手を差し伸べると、ほっとしたような表情を見せてこっちへ手を伸ばしてきた。その細い彼女の手が俺の手をぎゅっと握る。それだけでドキッとしてしまった。


 俯いているその男子生徒を見ると、唇を噛みしめて、悔しそうにその場に佇んでいる。
 この男は彼女のことが好きなのだろうか。だけどやり方が間違っているだろう。好きな女を怯えさせてどうする。

 男をその場に残し、彼女を図書館の外へ導いた。


「柊の知り合い?」


 図書館の門の前で待っていた修哉が彼女を不思議そうな目で見ている。
 彼女も修哉を見て、ぺこりと頭を下げた。


「この図書館で働いている子。俺、この子を送ってくるから、先行っててくれ」


 修哉にそう告げると、驚いて目を丸くした。彼女も驚いて、拒絶を示すように首を横へ振る。
 だけどひとりで帰すのは不安だった。彼女がよくても、俺が納得できない。

 飲み会の場所決まったら、俺の携帯へ連絡することと、その旨を瑞穂へ伝えておくと修哉が言ってくれた。そんな中、オドオドしながら俺と修哉の顔を見る彼女の背中をそっと押した。

 薄い背中。とっても頼りないそれは、強く叩いたら折れてしまうんじゃないかって思うほどだった。

 瑞穂が今日誘ってくれたからこの現場に居合わせて、彼女を助けることができた。
 少しだけ瑞穂に感謝した。



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Date:2013/08/01
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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