空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 16

第16話 先生な彼

未来視点




 図書館で本の整理をしていると、スカートのポケットの中の携帯電話が震えた。
 画面を見ると、母からのメール。


  『今日は少し遅くなります。あなたも仕事無理しすぎないでください』


 今日も遅いんだ……最近また忙しくなってきたって言ってたもんね。

 今日は図書館で二十時まで時間を潰した後、どこかに寄るかな。何時頃帰れば母の帰宅タイミングとあうだろうか。少し楽をさせてあげたい……他でもアルバイトしたいけど学校では認めてもらえない。


「あ、未来ちゃん」


 名前を呼ばれて振り返ると、そこには柊さんがいた。
 紺色のジャケットに無造作に結ばれた青と白のストライプのネクタイ。薄い水色のワイシャツ姿。とってもオシャレ。


「丁度いいところで。この本を探しているんだ」


 柊さんから小さいメモ用紙を受け取る。
 わたしはポケットから携帯電話を取り出して、文字を打ってからその画面を見せた。


『柊さんは本当に本が好きなんですね。こっちです』

「未来ちゃんも本が好き?」

“大好き”


 唇の動きで柊さんに伝えると、彼の動きが一瞬止まったように思えた。
 目を丸く見開いて、小さく口を開いている。なんでそんな驚いたような表情をするんだろう? 
 柊さんの顔を覗き込んで首を傾げてみた。


「いや、なんでもないよ。行こう」


 なんだか柊さんの表情が硬い。気のせいかな?
 ちょっと腑に落ちないけど、柊さんの前を歩き出す。


「あれ? 柊先生?」


 後ろから柊さんを呼ぶ女の子の声が聞こえた。
 思わずわたしも足を止めて振り返ってしまった。


「金子?」


 少し茶色い髪をポニーテールにした女の子が立っていた。
 柊さんがその女の子に近づいて話し始めるのを、少し離れたところで見ていた。手持ち無沙汰に書架の本を取り出してまた戻したりする。単なる時間つぶし。

 柊……先生か。高校教師だって瑞穂さんが言ってたもんね。
 わたしにとっては先生ではなく『柊さん』だから『先生』は違和感だなぁ。

 あの女の子の制服……この辺の横溝高校のもの。柊さんは横溝高の先生だったんだ。


「――未来? 未来でしょ?」


 柊さんと話していた女の子がわたしに近づいてきて、徐に顔を覗き込んできた。
 知り合い? きれいにメイクをされたその顔に覚えがなかった。 


「やだ、忘れちゃったの? 私よ! 金子麻美」

“あさみ!?”


 わたしが唇で伝えると、麻美が何度もうなずいた。
 彼女――金子麻美は小学校時代の同級生。家が近いのでよく遊んだ仲だった。
 話せないわたしでも仲間に入れてくれて、とっても優しい友達だった。中学は学区が違うために残念ながら別れてしまった。

 後ろで驚いた顔をしている柊さんと麻美を交互に見た。教師と生徒の関係だったんだ。
 メイクをしていたから全然気がつかなかった。小学校の時は美しい黒髪だったのに染めたのかな? わたしもあんなにきれいな黒髪になりたいって思ってたから、もったいないって思ってしまった。


「柊先生、未来の知り合いなの? 知り合いが図書館にいるってもしかして未来のこと?」

「違う。大学の同級生がいるんだ」


 柊さんと麻美、随分仲がよさそう。
 先生とこんなふうに親しげに話せる関係っていいな。


「未来はここでバイトしてるの? その制服聖稜でしょ? 昔から勉強できたもんね」


 ポンポン! と麻美が真正面からわたしの両肩を叩く。
 柊さんの方を見ると居心地悪そうな顔をしてわたし達を見ていのに気づいた。慌てて携帯電話に文字を打って麻美に見せる。


『今仕事中だから、また今度ね』


 うなずく麻美を見て、続けてもう一回文字を打つ。
 そっちは柊さんに見せた。


『麻美とわたしは小学校時代の同級生なんです。今、この本持ってきますね』


 柊さんが「おお」と小さな声をあげて、納得したようにうなずく。
 麻美に手を振って柊さんが探している本を取りにその場を離れた。





 本を持って戻ると、瑞穂さんも加わって三人になっていた。
 さっきよりさらに柊さんの顔が硬く見える。


「あ! 未来」


 麻美がいち早くわたしの存在に気づき、手をあげた。
 そんな麻美に笑いかけて、柊さんに本を手渡すと「ありがとう」と小さな声でお礼が返って来る。その表情がほっとしたように見えたのは気のせいかな?


「未来ちゃんと柊の生徒が同級生なんて、年を感じるね、柊」

「うるさい、俺は行くぞ」

「あっ! 二十時にここだからね。忘れないでよ! 柊」

「わかってる」


 柊さんが振り返らずに去って行った。
 早くここを立ち去りたかったんだなってその背中を見て思った。自分の生徒と同級生に囲まれたら居心地悪いかもしれない。


「柊先生のあんな態度初めて見たわ」

「生徒に素の自分なんか見せたのが恥ずかしかったんじゃない?」


 麻美と瑞穂さんがくすくす笑っている。
 柊さんという共通の話題を見つけたふたりはとっても仲がよさそうに見えた。



 今日二十時にここで柊さんと瑞穂さんは待ち合わせをしているんだ。
 ……と、いうことは瑞穂さんが今日二十時までの残り当番ってこと。早く鍵を閉められるように、わたしも少し早めに出た方がいいのかもしれない。


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Date:2013/07/31
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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