空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第9夜

 

 身体が重い。
 なんとなく息苦しい感じがする……なんで?


「雪乃さん……」

「――――え?」


 名前を呼ばれているような気がして目を開けると――――


 雨宮翔吾に組み敷かれている自分が、いた。
 首筋に柔らかい感触、それが徐々に下がっていく。


「いやあああああ!」

「雪乃さんっ」

「やめてよーっ! 変態っ! やだやだっ!」

 
 もがくように暴れて両手を振り回すけど、あっという間に両手首を掴まれシーツに縫い付けられるように固定された。なにこの状況? 信じられない。身動きさえ取れない。
 
 目の前に、真剣な表情の雨宮翔吾。


「雪乃さん……好きだよ」

「や……やだあ……」

「雪乃さん……俺のモノになって」


 俺のモノって? 何? 好きって?
 ガウンの上から胸に触れられる感触。その手がやわやわと動く。
 
 この人絶対酔ってる! 目がっ! 目が陶酔してる感じっ。
 酔った勢いでいいようにされちゃうのはいやだ! わたしはじめてなんだってばーっ!

 いい人だと思ったのに……少しでもそんなふうに思った自分を呪った。
 女をホテルに連れ込んで美味しく? (いや、わたしはまずいかもしれないけど)いただいちゃうような人だったんだ!

 
 後悔してもあとの祭り……なの?


「ああーっ! いやだあ!」

「雪乃さん……好きだよ。好きだ」

  
 耳元で雨宮翔吾が囁く声が妙に艶っぽい。
 ぴちゃりという音が耳に響いたと同時に柔らかい粘膜が中を犯してゆく。


「うわあああん! いやあ!」



















「……きのさん! 雪乃さんっ!」

「……え?」


 雨宮翔吾がわたしの身体を揺すってる。


「どうしたの? 悪い夢でも見た? なんでこんなところで寝てるの?」


 え? あ? 夢……?
 まさかの夢オチーっ?


 わ……わたしったらなんて夢見てるのっ?
 雨宮翔吾に襲われそうになる夢を見るなんて破廉恥なっ! 最低! ばかばかばか!
 
 この人がわたしなんかを好きになるわけないのに! 自惚れた夢すぎる!


「雪乃さん? どうしたの? 顔真っ赤」

「あ……あう……あう……」

「大丈夫?」


 両頬がそっと包み込まれる。

 ああ、すごく暖かい手。
 じっとさすようにわたしを見つめる雨宮翔吾の瞳に吸い込まれそう……。

 夢が醒めてほっとしたのと、その暖かい手が気持ちがよくて、そっと瞼を閉じる……と。


 唇に柔らかい感触。


「――――!?」


 驚いて瞼を開くと、目の前に雨宮翔吾の前髪と長いまつ毛、そして閉じた瞳……。
 ふに、ともう一度押し当てられる。


 ――――えええええええ?


 なにこれっ? なにこれっ? キスされてるのっ?
 

「雪乃さん」


 優しい顔の雨宮翔吾がじっとわたしを見つめてる。
 これも……夢?

 この感触も? こんなにリアルに感じてるのに?


「夢……?」

「夢じゃない。現実」

 
 現実? 嘘……? じゃあ……。
 雨宮翔吾がわたしにキスした? なんでなんでなんで?
 
 頭の中がパニックして整理しようとしても回ってくれない。
 胸が張り裂けそうなくらいドキドキが加速してゆく。目の前の雨宮翔吾の目を見れず、綺麗に隆起した喉仏の辺りを見つめてしまう。そんなところも色っぽい。ずるい! ずるすぎる!


「雨宮さん……」

「翔吾、言ったでしょ? そう呼ばないと返事しないよ?」

「しょ……うご……さん」

「ん、いい子」

「んっく! んんーっ!」


 雨宮翔吾の舌がわたしの唇の隙間からそっと挿入された。

 もがこうとしてもソファの上だし、上から雨宮翔吾に押さえつけられて足しかバタつかせることができない。まるで意味のない抵抗を繰り返すけど、状況は全く変わらない。
 それどころかぬめっと動く柔らかい肉厚の舌がわたしの口内を好きなように動き、蹂躙してゆく。
 
 ビール! ビールの味がっ!
 

「んくっ! んんんっ! んぐっ」


 一生懸命雨宮翔吾の胸を押しやるけどビクともしない。
 口の中に唾液が注ぎこまれて必死でそれを飲み込むしかできなかった。
 
 苦しい……苦しい……。

 ギブギブ! の意味を込めて、胸を二回タップする。


「ん? 雪乃さん?」

「ふはあ! はあ! はあ! ばかっ!」

 
 わたしの息はすっかりあがっていた。


「雪乃さん、鼻で息しないと」

「はあっ! はあっ! ばかばかばかっ! 何勝手にっ!」

「雪乃さんが目閉じるからいいのかなって思って」


 そんな理由ーっ?
 初めてのキスだったのにっ! こんな夢も希望もないまま酔った勢いで奪われてしまうなんてっ。

 しかもこの人全然悪びれてない……そのニコニコ顔は何?


 ジワッとわたしの目から涙が溢れ出した。


「え? ゆき……」

 
 目の前の雨宮翔吾が憎かった。恨めしかった。
 なんでこんな奴にわたしのファーストキスをって考えたら頭の中煮立ってしまいそうだった。
 

「ああ! もう! 離れてっ! 離れてくださいっ!」

 
 駄々っ子のようにソファの上でジタバタすると、雨宮翔吾の身体がゆっくり離れた。
 圧迫されていたものが取り払われ呼吸が楽になる。
 
 だけどわたしのこのモヤモヤした感情は取り払われず、ソファの上でジタバタすることしかできなかった。
 頭を左右に振って忘れようとするけど全然無理で、唇の感覚がリアルに残ってて――


「わーん! ドロボウ! ドロボウ!」

「え?」

「返せー! ばかー!」


 わたしが振り回している両手を雨宮翔吾が掴む。
 そのまま引き上げられ、強引に身体を起こされた。


「雪乃さん、キス、初めて?」


 熱のこもった目で雨宮翔吾がわたしの目を見つめて訊いてきた。
 恥ずかしいような悔しいような気持ちが入り交じって、唇を噛みしめて騒ぐのをやめると、はあっと小さいため息が聞こえた。わたしのその態度を肯定と受け取ったのだろう。


「そっかぁ、そっか。だから返せ、か。ごめんね。返せないや」

「……」

「返せないけど、さ。俺、すげーうれしい。雪乃さんのファーストキスもらっちゃった」


 雨宮翔吾が少し俯いて真っ赤な顔をしている。
 しかも本当にうれしそうに笑って……。
 なに? その笑顔? なんでそんなうれしそうに笑うの?

 恨みがましい目で見ていたら、急に雨宮翔吾の表情が真剣なものに変わった。

 胸がドクンと、高鳴る。
 なに? 急にその変わりよう。本当にずるい人だ。そんな神妙な顔つきされても――


「俺、雪乃さんが好きだわ。つき合ってください」



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Date:2013/01/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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