空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 7

第7話 越えたい女の子

悠聖視点




 自分の部屋で宿題をしていると、急に昼間のこと思い出した。

 図書室の書架の前、僕の手に触れて真っ赤になった弓月未来。
 必死で謝ろうとするその姿、あの狼狽え方。
 今時、男の手に軽く触れたくらいであんな反応するか? ちょっと触れただけなのにあんなに謝るなんて、なんだかすごくかわいかった。


 部屋のドアをノックされた音がして、振り返ると母が立っていた。
 持ったお盆の上のマグカップから、コーヒーのいい香りが漂ってくる。


「悠聖、入っていい? コーヒー飲まない?」

「うん。飲む」


 母が部屋に入って来て、僕のマグカップを机に置いてくれた。
 ちょうど飲みたいと思っていたから、それを手に取ってすぐに口をつける。ほんのり苦味を感じるアメリカンだった。


「学校はどう?」

「――まぁまぁ」

「それならよかったわ」


 母が満足げにニッコリと微笑みながら、僕のベッドに腰をかける。
 その笑みを見て、僕は感じ取ったことをつい口にしてしまった。


「父さんに探り入れるよう頼まれた?」

「悠聖?」

「冗談」

「もう……」


 ため息をつく母を見て、僕の言っていることはあながち間違いじゃないと思った。
 態度に出すぎ。誤魔化したいのならもっとポーカーフェイスを保つ練習をして来いよとも思う。


「特待生の女の子ってどんな子なの?」

「……気になる?」


 僕は机に向かい、質問し返した。だから今、母がどんな表情をしているか伺い知ることはできない。
 我ながら意地悪だなとは思ったけどね。その質問も父の差し金なのか? どっちでも構わないけど。


「そうじゃないけど、言葉が話せないって聞いたから……」


 それが気になってるってことだと思うけど。
 それは言わずに心の中で留めておく。あまり意地悪しても可哀想だしね。


「話せないけど普通だよ。違和感ないかも」

「話せないのに?」

「唇の動きでなんとなくわかるから」

「……そうなの?」


 母の心配そうな声を聞いて、そっちを見た。
 腕を組んで、顔をしかめている。


「若い女の子の唇を見て話すなんて、やっぱり……ねぇ」

「――何が? 弓月と話すなってこと?」


 少し頭にきて強く言ってしまったことを後悔した。
 母が目を丸くして驚いた表情で僕を見ているから。


「悠聖、そうじゃなくて……」

「父さんに伝えてよ。期待に応えるよう頑張るからって」


 困惑顔で「わかったわ」と言う母が部屋を出て行くのを黙って見送った。
 部屋の扉が閉められるのを確認してから、僕は大きくため息をつく。息が詰まりそうだった。




 父が僕に期待しているのはわかっている。
 父の名前、悠介の一文字を取って名づけられた僕、悠聖。
 兄貴にはそうしなかった理由はわからないけど、僕の名前はそうやって決めたそうだ。小さい頃にそう聞かされて、それは僕のプレッシャーとなって圧し掛かってきている。それは一生付きまとうものだろう。


 父は、僕が特待生になれなかったことは気にしていないが、首席合格じゃなかったことに関しては相当腹を立てていると思う。もし首席合格を果たしていたとしても特待生制度は父の指示で辞退していたはず。

 だから父の中で『弓月未来』という存在は勝手に僕のライバル化されているのだ。
 僕にとってはそうじゃないのに、絶対に彼女を越えないといけないという目標が課されている。しかも暗黙でだ。


 弓月未来を思い浮かべる。
 僕が彼女を越えられる日が来るのだろうか……。



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Date:2013/07/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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