第6話 気になる女子高生と友達でいたい同級生柊視点
今日も図書館で、瑞穂から『未来』と呼ばれた女の子の姿を見た。
声をかけようかと思ったら、書架の陰で涙を拭っていたのだ。
あの子は一体何者なんだ? なんであんなにも壊れそうで、儚げなんだろう。
何が彼女をあんなに悲しませているのだろうか?
いつものようにシャワーを浴びてビールを飲みながら考える。
なんで、彼女を見るとあんなに複雑な気持ちになるんだろう。
あんな女子高生を見るのは初めてだった。自分が学生時代だった頃の同級生にも彼女のようなタイプはいなかった。だからなのだろうか、彼女のことをこんなにも考えてしまうのは。
正直なところ、二日連続で図書館に行く必要もなかった。
昨日借りた本はまだ半分も読んでいない。それなのに、今日もまた行ってしまったのだ。
Y図書館は俺の憩いの場、時間があれば今までも行っていた。ただそれだけのはず。それなのになんで俺はこんなに言い訳めいたことを考えているのだろうか。別に彼女に逢いに行ったわけじゃないんだし、いつも通りでいいはずなのに。
ただ、彼女をどこかで見たことがあるような、既視感みたいなものが常に纏わりついている。どこで? あんなにきれいな子なら忘れるはずないのに。
なんだか落ち着かなくて、持っていたビールの缶をグシャリと潰していた。
テーブルの上に置いておいた俺の携帯電話が鳴り、画面を見ると“藤原修哉”と表示されていた。
画面を見なくても着信音をわけているのでわかるのだが。
「修哉?」
『オウ、おまえさ、昨日なんで来なかった?』
少しだけ不機嫌そうな修哉の声に、軽く首を傾げる。
すると、小さくコキッと音が鳴った。首がこっているのだろうか? 何回か首を左右に振ると、同じように小さくコキコキいう。年を感じるな。
「昨日?」
『瑞穂、オレと飲みに行くってお前を誘ったろ?』
「あー」
そのことか。
瑞穂に取った態度と同じように反応してしまった。深く弁解するつもりもなく、そこで言葉を区切った。
『瑞穂、落ち込んでたぞ。柊にフラれたって』
「バカな」
『本当だよ』
俺が笑って誤魔化すと、修哉が真剣な声で嗜めた。
俺は修哉に聞こえないように、小さくため息をつく。
「家でどうしてもやっておきたい仕事があって……」
『生徒の評価なんちゃらだろ? 本当に高校教師やってるんだもんな』
「……」
『ちょっとは瑞穂の気持ち考えてやれよ』
少し怒ったような声の修哉。
ああ、頭の中がぐちゃぐちゃしてきた。
『柊、聞いてるのか?』
「あのなぁ、俺は瑞穂のことなんとも……」
『思ってないなんて言うなよ!』
言おうと思ったことを先回りして修哉に言われた。
言葉を遮られて胸の中がモヤモヤしてくる。これ以上この話をしても平行線のままだ。ずっとそうだったからわかる。だからあまり多くを語る気はない。
「修哉、悪いけど、俺ちょっと忙しいから……」
『おい……柊』
通話を切った。
修哉のことを思ってしたことを責められるなんて思いもしなかった。
確かに瑞穂のことを、気になっていた時期もあった。そのことは修哉も知っているはずだ。
だから修哉は俺と瑞穂をくっつけようとしている。そして、瑞穂の気持ちは俺に向いていると言い張るのだ。それは瑞穂本人から聞いたと。だけど、俺自身は瑞穂からその気持ちを伝えられたことはない。
俺の瑞穂に対しての気持ちは恋愛感情ではなかったのだ。
ある時、ふとそれに気づいた。だから俺は瑞穂を普通の女友達だと思っているし、純粋に修哉のことを応援しているつもりだ。
修哉も瑞穂も大切な友達だから、うまくいってほしいのにって思うのは悪いことか?
瑞穂を好きなら修哉がもっと押すべきだろう。
これじゃ高校生レベルの恋愛話だよな……嫌気がさす。
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Thema:オリジナル小説
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