空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 5

第5話 義父の手伝い

未来視点

性虐待シーンがあります。苦手な方はお戻りください。





 今日は仕事で失敗して、少し落ち込んだ。
 司書の瑞穂さんのお友達に本ごと激突しちゃって恥ずかしい思いをした。

 だけど仕事は少しずつ慣れてきて、要領も掴めてきた。
 そんなに忙しい仕事ではないし、自分のペースでできるのがとってもありがたい。声をかけられない限り黙々と進められることができる。

 



 バイトを終え、家に着いたのは二十時を過ぎていた。
 喜和荘の古ぼけた石門を通って左に入るとすぐうちの縁側。
 そこからいつものように茶の間の様子を覗く。母は帰って来ているだろうか?


「おかえり、未来」


 後ろからいきなり声をかけられて、わたしは全身で驚いてしまった。
 ゆっくり振り返ると、そこには義父が立っていた。


“た、ただいま”


 唇の動きで伝えると、義父は口元だけでニッと笑った。


「玄関から入らないとダメじゃないか。お母さん待ってるぞ」


 強引に右肩を抱かれ、玄関まで連れて行かれる。
 その手に力がこもっている。それにすごくお酒臭い。


「なぁ、未来。受験も終わったしまた父さんの仕事手伝ってくれるよな?」

「――!!」


 その言葉にわたしは身構えた。
 そんなわたしの異変に気づいたのか、義父に顔を覗き込まれた。


「どうした? もちろんいいよな?」


 俯いて小さくうなずくと、義父の手がわたしの身体を自分の方に引き寄せた。
 その手がわたしの右肩を何度も撫でる。


「助かるよ。未来が手伝ってくれないと全然ダメなんだ。ほら、お母さんに少し楽させてやりたいだろ?」


 それを言われると断れなくなってしまう。
 母は朝早くから夜遅くまで働きづめだ。残業になって帰りが遅いことも多々ある。少し楽をしてほしい。


「おまえも最近バイトで忙しいだろう? なかなか時間が取れないだろうから少しでいいんだ。明日十九時までに帰ってきなさい」


 義父の言葉にわたしはうなずくしかできなかった。
 バイトで忙しいとわかっていながらも、帰宅の時間指定はしてくる。矛盾しているとは思わないのだろうか。



**



 翌日。

 わたしは学校の図書委員会も引き受けてしまったので、そちらの書架整理もしている。
 学校の図書室は小さいけど、意外とキレイで新しい本が多い。


「弓月さん、この本も頼むよ」


 書架の向こう側から声をかけてきたのは図書委員会長の橋本 裕はしもとゆたか先輩。
 三年生で特進クラスの上位にいる、かなりの秀才らしい。
 橋本先輩から本を受け取って書架に戻す。


「君みたいに真面目な子がいてくれて助かるよ。みんな図書委員なんて名前だけ貸しておけばいいくらいにしか思ってないからサボりが多いんだ」


 橋本先輩がニコッと笑うから、わたしも軽く会釈して仕事をこなす。
 今日はこの後、図書館のバイトで十九時には帰らせてもらわないといけない。


 こうして整理をしていると、結構違う棚に戻されている本が多いな。
 その中で目を引いたのが医学書の棚にまぎれた小説。手を伸ばすと、別の手がその本に伸びてきた。


「――!」


 気がついた時には間に合わなくて、その人の手に触れてしまった。
 長い指、キレイな手。


「弓月?」


 名前を呼ばれて顔を見ると、首席合格の佐藤悠聖くんだった。


“ご、ごめんなさいっ”


 慌てて手を引っ込めて謝るけど、唇で表現してもわからないかな?
 ブレザーのポケットから携帯電話を取り出して文字を打とうとすると――


「そのくらいわかるから大丈夫。それに謝られるようなことされてない」


 頭の上から声が聞こえてきた。
 佐藤くんを見上げるとすでに書架の上の方を見ている。

 なんだろう……すごく心臓がドキドキする。


「弓月さん、こっちもいいかな?」


 橋本先輩に呼ばれて振り返ると、佐藤くんもそっちを見た。
 わたしは佐藤くんに軽く頭を下げて、その場を去った。




 図書委員の仕事を終えて、図書館に向かうと十六時ギリギリだった。
 館長に今日は早めに帰りたいと伝え、仕事が終わり次第ならいいとのこと。そのためにノルマを少なくしてもらった。申し訳ないと思いつつどうにもできない自分に腹が立った。


 仕事をしている途中、ふと我に返る。
 わたしはお金を稼ぐために、家計を助けるために働いている。それなのになんで義父のために仕事を早退しないといけないんだろうか。

 義父の手伝いはわたしには何のお金にもならない。
 でも、義父の仕事が軌道に乗ればお母さんも楽になる。そう考えたら無駄じゃないのかな?

 本当は嫌だけど……しょうがないのかな。


「……っ」


 やだ、涙出そう。
 こんなところで泣いたら変に思われちゃう。まだまだ仕事あるんだから頑張らなきゃ!



**



 仕事を終え、家に着くと十九時ジャスト。義父が茶の間でお酒を飲んでいた。
 お母さんの終業時間は大体十九時半から二十時なのでこの時間はいない。たまに残業になると二十一時を越えることもある。

 でも、今日は早く帰ってきてほしい。心からそう祈ることしかできなかった。


 玄関から家に入ると、義父がにっこり笑ってわたしを見た。
 義父はわたしが縁側から家に入ることをよく思っていないから、いる時は玄関から入るよう心がけている。そもそも縁側から茶の間を覗くのは、この義父がいるかどうか確かめるだけの理由だから。

 いないことがわかれば、安心して茶の間から入る。いれば玄関へ向かう。わたしの心の準備みたいなものだ。
 
 この義父が家にいる限り、ここにわたしの心の平穏はない。


「未来、おかえり。お風呂沸かしてあるから早く入ってきなさい」


“ただいま”


 唇で表現して靴を脱ぎ、義父の顔を見ずにうなずく。
 こういう時は十分以内にあがらないと機嫌が悪くなることもわかっている。


 予定通り十分以内に入浴を済ませ、スウェット姿で茶の間に戻った。
 義父はさっきとほとんど変わない状態でテーブルの前に座り、焼酎をあおっていた。すでに頬は紅潮し、お酒の匂いが漂っている。
 これから仕事のはずなのに、こんなに酔っ払って……。


「よし、じゃあ始めるか」


 自分の横に置いてあったスケッチブックと鉛筆を片手に義父が立ち上がる。
 わたしはその手に押され、自分の部屋に促された。
 ふすまを開けると布団が敷いてある。わたしがいないうちに敷いておいたんだ……準備は万端ってことだ。


「じゃ、仰向けで右手で目の辺りを隠す感じ」


 義父が指示を出す。
 わたしは心の中で小さくため息をついた。覚悟を決めるしかないのだ。

 上のスウェットに手をかけてゆっくり脱ぐ。
 下のズボンにも手をかけて時間をかけて下ろし、脱いだものは端に寄せた。


「ブラジャーも外せ」

「……」


 ギュッと目を閉じて震える手でブラを外した。
 露わになった胸を腕で隠しながら布団の上に寝そべる。

 義父の指示したポーズを取ると自然に涙が溢れてきた。
 だけど泣き叫ぶわけにもいかない。少しでも動こうものならすぐに機嫌が悪くなるから。


 シャッシャッシャッと鉛筆が動く音が聞こえてきた。
 スケッチブックに向かって義父は真剣な眼差しでわたしを描いている。

 今日のポーズは目元が隠れていてよかった……そうじゃなかったら涙を隠せなかった。
 右手の甲で覆っていても、瞼から頬を伝って零れ落ちる涙は隠しきれていないだろう。でも止めることなんかできなかった。


「うん、もう少し腰をこう浮かせて……上半身はこんな感じかな?」


 わたしが泣いているのもお構いなしに、義父が身体に触れてきた。
 自分の好みの体勢にさせるためだ。左の殿部を触りながら、さりげなく胸の方にも触れた感覚。背筋がぞっとして身震いがした。


 そのまま三十分くらい時間が経ったころ、わたしの携帯電話が鳴った。
 母の仕事終わった連絡のはず。毎日仕事が終わると連絡をしてくれることになっている。今日は少し早い。

 その音を聞いて、義父の小さい舌打ちがした。


「まだ全然描けてないから……」


 義父はカメラを取り出し、そのままのわたしの身体の写真をいろんな方向から撮り出した。
 乾いたようなシャッター音が何度も何度も聞こえてくる。これもいつものことだ。


「写真なんかじゃ未来の肌の質感は伝わってこないんだが……」


 納得できないっていう感じの義父が、何度も眩しいフラッシュでわたしを照らす。
 母のメールが着たら、十分以内で家に到着するはず。もう少し……もう少しの辛抱。


「しかし、未来も大きくなったな……キレイな身体だ」

「――!?」


 義父がわたしの頭を撫でたあと、いきなり左の首筋を這う生暖かい感触がした。
 全身が総毛立ったのと同時に左の胸に手の感触。それは最初、やわやわと動き、少しずつ強弱をつけて揉まれているようだった。


“やあ……義父さん”


 唇で表現するけど声は出ない。
 それをわかっていてやっている義父。満足そうに微笑みながら、唇の端をきゅっと持ち上げた。

 助けて……助けて……助けて!

 次に右胸に手と唇の感触がした。
 ゆっくり両胸を揉みしだかれて、その先をきゅっと摘まれた。
 初めての感覚に、わたしの背がぐっとのけ反り、両肩に力が入る。


“あ! や……!”

「動くな!」


 義父に怒鳴られ、全身が硬直してしまう。
 歯がガチガチと音を立てて、下顎が小刻みに震える。息が苦しい。

 口からはわたしの呼吸音しか漏れてこない。
 

「本当にキレイだなぁ……未来は」


 義父がわたしの身体をこんなにも弄ぶのはこれが初めてのことだった。
 今までは少しは触られていたけど、こんなに撫でたり揉みしだいたりはしなかった。

 わたしの胸の先端を義父の指が何度も摘んだり押したり唇に含んだりしはじめ、その刺激でなのか身体の奥の方が変な感じになってくる。


“やめて……義父さん……”


 泣きしゃっくりを上げながら怖くて必死で哀願した。
 助けて……誰か……怖い!


 その時。
 キキッとかん高いブレーキ音を聞いた。


 母の自転車! 絶対そうだ。
 お母さん! お母さん! わたしはそう心の中で叫んでいた。


「――服を着なさい」


 義父がスケッチブックを片手に、すぐに部屋を出て行った。

 安堵のため息と共に涙が溢れて止まらなくなる。瞼も頬も熱い。
 ずっとそんな姿を晒したくなくて、すぐに起き上がってスウェットを着用する。


「ただいまぁ。未来は?」

「おかえり、お疲れ様。部屋で勉強じゃないかな?」


 茶の間で母と義父の話し声が聞こえる。
 和やかに普通のやり取りをしている義父が憎くてしかたがなかった。
 

「未来、今からご飯作るからね」


 ふすまの向こうから、母の声。
 わたしは机の上のメモ用紙に言葉を書き込み、ふすまの隙間からそれを滑り込ませた。


『食欲ないからいらない。ごめんね』

「具合悪いの? 大丈夫?」


 母はわたしがふすまを開けない限り、絶対に開けない。昔からそうなのだ。
 涙に濡れた顔を見られたくなくて、メモ用紙にペンを走らせる。


『大丈夫。心配しないで』


 そのメモをもう一度ふすまの隙間から滑り込ませた。

 布団に包まって泣く。今のわたしにできることはそれだけだった。
 早くシャワーを浴びたかった。でも、こんな顔じゃこの部屋から出られない。母に心配をかけたくない。


 この家を出たい……一刻も早く飛び出したい気持ちでいっぱいだった。



***



 遠い昔の記憶。
 まるで映画を観ているような感覚でそれを思い出していた。


 本当の父がわたしを抱きしめてくれている。
 本当にうれしくてニコニコしている。声を上げて笑っている三歳くらいのわたし。

 そこに、わたしより大きい男の子が現れる。


『未来、おまえのお兄ちゃんだよ』


 父がそう言ってその男の子をわたしに紹介した。
 わたしが近づくと、その男の子は一瞬身を引いた。


『お兄ちゃんっ』


 その男の子のお腹の辺りにわたしが抱きつく。
 お兄ちゃんは最初うざったそうにしていたけど、少し経つと抱きしめてくれた。

 わたしはそれがうれしくて、ずっとお兄ちゃんにくっついて歩いていた。
 お兄ちゃんもわたしをすごくかわいがってくれた。とっても優しい、笑顔のお兄ちゃん。




 断片的ですごく曖昧な記憶がわたしにはある。
 このお兄ちゃんは誰? ってずっと思っていた。



***



 本当の父と母の関係を知ったのは小学校六年生の頃だった。
 本当の父は以前、他の女性と結婚していたことがあって、前妻との間に男の子がいた。
 父はわたしの兄として前妻との子を引き取りたかったらしいけど、前妻が拒否した。その男の子が記憶に残っている優しいお兄ちゃんだった、はず。


 母は初婚で、父は再婚だった。


 小六の多感な時に、その事実を知ってかなりショックだったのを覚えている。


 今の義父が母と一緒に住みはじめたのは、わたしが五歳の時。
 その時の義父は優しかった。
 いつもわたしを公園に連れて行って、たくさん遊んでくれた。ひと言も発しない子どもをよく面倒見てくれたと思う。

 優しい実の父の尊い記憶もあったけど、わたしはこの義父が大好きだった。
 義父の仕事は画家で、昔は風景画ばかり描いていた。その絵を描く義父の姿を見るのは楽しかった。

 いつの日だったろう……義父の絵が盗作扱いを受けたのは。

 確かわたしが中学に入って間もない頃だったと思う。
 それから義父は荒れはじめ、風景画より人物画を描くようになった。
 最初は普通の人物画だったのに……わたしが中三になった頃から、母の仕事時間を狙ってヌードモデルに何度もさせられた。


『お母さんには内緒だぞ』
『未来の絵はマニアに高値で売れるんだ』


 ずっとそういい聞かされてきた。今までは……。


 だけど今日、自分の身体を弄ばれて怖かった。今でも身体の震えは止まらない。
 このままいつか、義父に穢されるような気がした。

 早く、逃げたい。

 誰か助けて。お父さん、お兄ちゃん……。



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Date:2013/07/26
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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