空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 2

第2話 新入生代表

悠聖視点




 僕が入学式で新入生代表の言葉を述べることになったと聞かされたのは、三月の終わりのことだった。
 辞退したかったが、できないとのことだったので慌てて準備をした。

 新入生代表挨拶は普通首席合格をした生徒がするものである。なのにその役目がまわってきたのには理由があった。


 今年の首席合格の女子生徒は口がきけない。
 ゆえに新入生代表の挨拶ができない。


 それで二番合格の僕にその役割が回ってきた。かなりやっかいだと思った。
 せっかく受験勉強から解放されたと思っていたのに。不満でいっぱいだった。
 僕が首席合格者として、壇上に上がる。その事実は誰も知らない。そう聞かされていたが、納得いかない気持ちは僕の中で苛立ちとして蓄積される。

 この新入生代表の代役を引き受けたのは父。
 ふたつ返事で了承したのだろう。その時の状況は手に取るようにわかる。

 父のプライドのため、僕は利用されたと言っても過言ではない。



**



 入学式の日。
 僕は代わりをする首席合格をした女の子を探していた。
 その子の代わりに僕が首席合格者として舞台に立つ。どんな子なのかかなり興味があった。言葉を発することができないことに関しても。


 高校の門をくぐると素晴らしい桜の木が新入生を迎え入れてくれた。
 すでに散ってしまっている木も多い。花びらが絨毯のように見えて、それは美しい光景だった。

 その下にひとり佇む女の子。

 茶色い長い髪、大きな瞳に柔らかそうなピンク色の唇。なんとなく悲しげなその表情。
 お世辞抜きでとっても美しい少女だった。真新しい制服を見ただけでわかる。同じ新入生だろう。

 その時、僕は呼吸をするのを忘れかけたほどその女の子に見惚れていた。
 憂いを含んだ瞳、儚げな表情。その子は一度だけの僕の方を見たが、何事もなかったようにすぐ桜の木へ視線を戻した。

 その見惚れた彼女こそが首席合格で入学した女の子だと知ったのは教室でのことだった。


 彼女は窓際の後ろの方の席で、僕と同じ中学出身の玲に声をかけられたが、話せないから携帯電話に文字を入れて対応していた。
 しかし彼女の行動に玲は引いてしまい、クラス中の生徒から冷たい目で見られていた。悲しげな彼女の表情を見た僕の胸は一度だけどくんと強く拍動した。


「なぁ、悠聖あの子だろ? おまえの代わりに特待生になった子って」

 僕の後ろの席の志田健吾しだけんごがこそりと耳打ちをしてきた。
 健吾と僕は同じ中学出身の親友である。僕と同じくらいの高身長で女子生徒受けも悪くはない。もてるほうだと思うが、肝心な時に押しが足りないのが玉にキズ。


「ああ、そうみたいだな」

「えらい美人だなぁ……あれで言葉が話せないって超神秘的じゃね?」

「……おまえ、漫画の読みすぎ?」

「そんなんじゃねぇよ。あんなきれいな子見たことない……悠聖はあるか?」


 健吾は彼女を見てかなり興奮していた。
 確かに……僕もあんなに美しい子に会ったことはない。だけどそんな思いを知られたくなかった。なぜか恥ずかしかったのだ。


「悠聖が特待生制度蹴ったことに感謝してるんじゃね? それをきっかけにお友達になったりして」

「バーカ」


 感情を表さないよう、すぐに健吾から目を逸らして前に向き直った。
 誰にも知らされてはいないが、元々特待生だったのは彼女だ。そのことを僕だけは知っている。
 僕が彼女に感謝されるとしたら、新入生代表の挨拶を代わってしたことだけだ。

 そう思いながら、真実を隠さないといけないことに小さなストレスのようなものを感じていたのだった。



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Date:2013/07/25
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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