空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第8夜


「――ん……」


 重い瞼をなんとか持ち上げて目を開けると、薄暗かった。
 あれ? なんでこんなに暗いんだろう? ここ、どこ?
 

「起きた?」

「――――!?」


 なに、このシチュエーション?
 薄暗い照明、見知らぬベッドの中。となりに片肘をつき、こっちを向いて寝そべっているのは雨宮翔吾……。


「あっ! な……! なんでぇ?」

「やーっぱり覚えてないんだ。ここどこだかわかる?」


 くくっと声をあげて笑うその表情からは揶揄するような感情が読み取れた。
 なんで……?
 お互い横向きで見つめ合っているこの状態。

 ひとりは笑顔、ひとりは青ざめ……。

 慌てて起き上がって布団の隙間から自分の身体を見ると、クリーム色のガウンを纏っていた。
 裸じゃないけど……なんでわたし、自分の服脱いでるの?


 枕元には一般家庭ではなさそうなボタンがたくさん設置された照明器具。
 横の壁には大きな絵画、こんなの一般家庭で見たことない。
 足元の先には大きなテレビ画面とソファにカラオケ装置? 一般家庭じゃ考えられない。

 
 結論。ここって……どう考えても、ホテルってやつ?


 なんで雨宮翔吾とわたしがーっ?
 胸元を手で押さえて雨宮翔吾を見ると、小さく首を振った。


「え? まだ何もしてないって!」

「まだ?」

「あー、いや。雪乃さん、気持ち悪いって真っ青だったからつい入っちゃったけどよかったのかなーって」

「いいわけないでしょう!? ちょっとあっち向いててくださいっ! 着替えを……」

「まだ乾いてないよ? 雪乃さんの服」

「――――え?」




 居酒屋『ユズリハ』を出て、間もなくわたしは気持ち悪いと言い出した。
 慌てふためいた雨宮翔吾(その状況を想像したら少しおかしいけど)に促され入ったホテルのトイレに駆け込むと豪快に嘔吐したそうだ。

 背中をさすってやってたら全力でわたしに拒否されて、それからは見ていないという。


「吐き終えてスッキリしたんだろ? 手を洗うところでうがいしてるような音がしたから安心してたのに、急に大絶叫が聞こえて駆けつけたらびっしょりだったってわけ」


 笑いを堪えながら雨宮翔吾が教えてくれた。

 それよりなにより横向きの体勢でガウンの合わせから見え隠れする胸元がセクシーすぎてクラクラしてしまう。
 男性の身体なんてこんな傍で見たことないから刺激が強すぎるってば!


「なんで……そちらまでそのカッコなんでしょう?」

「そちらって……」

「あ……えと」

「翔吾、で」


 ニッと白い歯をむき出しにして雨宮翔吾が微笑む。
 なぜ下の名前で呼ばせようとするのか?


「雨宮さん、あのですね」

「翔吾。そう呼ぶまで返事しないから」


 ゴロリとわたしに背を向けてしまった。
 なに? この子どもみたいな態度? 年上のクセにっ! 何背中向けちゃってんの! バカじゃないの?

 でもまあ、あの硬そうな胸元が見えないだけでもありがたいか……。


 ベッドから下りて自分を見ると、太腿の半分を隠すくらいの丈しかないガウンを身に纏っていた。
 自分で着たのだろうか? そうであってほしい。そうじゃなければ恥ずかしくてもだえ死にそうだ。
 
 そっと足音を立てないよう浴室の方へ向かうと、脱衣所も全面ガラス張りだった。
 丸見えじゃない……あんな浴室嫌だな。
 浴槽は大きくて丸形の造り。温泉ランドにありそうな感じの広々としたものだ。

 脱衣所の鏡の前にわたしの服が干してある。雨宮翔吾がやってくれたのかも。
 その服に触れてみると確かにぐっしょりに濡れていた。


「どうしよう……帰れないのかなぁ」

「無理でしょ? せっかくだから風呂入ってさっぱりして寝たら?」

「へっ?」


 気がついたら真後ろに雨宮翔吾が立っていた。
 着ているクリーム色のガウンはやっぱり丈が短くて、太腿が丸見えーっ!


「ちょ! そのカッコ……」

「へ? ああ。気にしなくても」

「そっちは気にしなくてもこっちはーっ!」


 両手で顔を覆い、首を振るとかみ殺したような笑い声が聞こえてきた。
 

「雪乃さんかわいいなあ……もう」

「かっ! からかわないでくださいっ!」

「からかってなんかない。本当にそう思ってる」


 頭を優しく撫でられる感触が、した。
 すうっとわたしの横を通り過ぎて雨宮翔吾が浴室に入っていく。筋肉質の足が妙に目に付いて……ドキドキしてしまう。


「お風呂いいよ。見ないようベッドのほうにいるから雪乃さん入っちゃったら?」

「え……あ……でも……」

「明日も仕事だし、ちゃんと休んだ方がいいと思うけど?」


 確かに……雨宮翔吾の言うとおりだ。ちゃんと寝ておかないと明日の仕事に差し支える。
 でもこんな状況下で眠れるのだろうか?




 結局わたしは雨宮翔吾に勧められるままお風呂に入った。

 気を遣ってくれたのか浴槽の中は泡風呂になっていた。
 まるで少女マンガの主人公になったみたいで少しテンションがあがっちゃった。

 生まれて初めてのラブホでこんなにはしゃぐわたしって……。





「雨宮さん……お先しました。お風呂ありがとうございました」


 すっかり身体も温まり、静かに寝室の方に戻ると雨宮翔吾はベッドで眠っていた。
 仰向けであどけない寝顔……いつもわたしに意地悪する人とは思えなかった。


 なんでこの人はわたしに構うのだろうか?
 他の女性社員ならこの人に声をかけられればよろこんで相手するし、望むような反応を返すはず。
 わたしなんて最初から逃げ腰だし、反応だってつまんないだろうし……地味だし、根暗だし。


「よくわかんない人……」


 でも、いつもより少しだけこの人が気になるのはなんでだろう?
 胸の奥で小さな火がパチパチ音を立てて燃えだしているような感覚がした。


 腰掛けていたベッドサイドから立ち上がる。
 足元にある大きいソファで寝ればいい。幸い室内は暖かいし、風邪引くこともないだろう。
 ベッドの上からベットカバーを引き抜き、それを掛け物代わりにしてソファに横になった。


「おやすみなさい、雨宮さん」


 なぜかわたしは小さい声でそうつぶやいてから深い眠りについたのだった。


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Date:2013/01/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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